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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第一章 関東シェルター編
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妄想と現実の決め方

 高校がテロリストに占拠されるという前代未聞の事件から一週間が経過した。


 関東第2高校は久々の通常授業日を迎える。時候は春から夏になろうとするすごしやすい季節であり、佐倉は爽やかな風を感じながら、いつもの通学路を学校へと向かっていた。

 季節といっても、ここはシェルター内である。氷期になる前の気温や湿度を施設が大掛かりな装置で再現しているだけであったが、人々は冬以外の気候があることに満足していた。


 区画4-Eの交差点を左に曲がれば、あと学校まで一直線だというところまで着いて、佐倉はただならぬ光景を目にする。


「湯……村……」


 彼のよく知る金髪の不良は、大抵ゲームセンターに寄ってから昼ごろに不機嫌な表情を携えて登校するのが常であった。つまり、彼が朝練のために登校する時間には湯村は自宅で寝ているか、ゲームセンターに居座っているはずである。


 しかし、あろうことかその知人は彼の目の前で、美少女に腕を組まれて登校していたのであった。湯村が不機嫌な表情を浮かべていることだけは通常と変わらなかったが。

佐倉は確認の意味も兼ねて、恐る恐る声をかけた。


「よ……よお、湯村」

「ああ、直人か。ちーす」


 佐倉の思考は小休止を要求する。どうやら目の前の金髪は自分がよく知る湯村という男らしい。


「別に急いでないし、声かけといて先にいくのも変……だよな」


 佐倉は湯村達の隣りに並んだ。構図としては熱々のカップルのデートに巻き込まれた不幸な友人Aといった具合だが、異常な事態に佐倉は学校へ着くまで、特にこれといったアクションを起こせずに終了する。


 そして、下駄箱のところで、職員室に用があるからと言って柏木が別れた後、佐倉の忍耐力は決壊した。


「うおおおおいっ。お前、どういうことだよ。何で美少女と登校してんんだ。ま、まさか付き合ってるなんて言わねぇよな」


 不機嫌な顔を崩さず、湯村はようやく重い口を開いた。


「そういうんじゃねぇよ。別に危害を加えてくるわけでもない女を殴るわけにもいかねぇだろ。学校に来るまでに、何度も撒いたんだが……駄目だったんだ……」


 湯村は心底つらそうに頭を抱えながら廊下を歩いた。佐倉も並んで、その隣を歩く。


「しかしなんだ。テロ事件からお前に連絡が取れなくてどうもおかしいなと思ったら、あんな可愛い女の子とキャッキャウフフしてたから連絡が取れなかったのか。いや、もうお父さん安心しちゃったな」

「いや、それは違うんだ……言えないんだが、とにかく違うんだ」

「?」


 佐倉は湯村の言い訳を不審に思ったが、特に気にならなかったので、それ以上深く聞こうとはしなかった。


 しかし三限目の終了後、佐倉は湯村に呼び出されて屋上に足を運ぶ。先に来ていた湯村はシェルターの空を見上げて、佐倉が来るのを待っていた。

 シェルターの空には、液晶画面ではあったが、気持ちのいい初夏の昼空が映しだされている。


「なんだ、先に来てたのか」

「ああ」


 それ以上、湯村が何も話そうとしないのを見て、佐倉から問いかけた。


「呼び出したってことは、何か用があったんだろ?」

「まあ、な」


 湯村は屋上の冊から外を眺めている。その表情は決して明るくはなかった。

 朝の件ではないと察した佐倉は、静かに湯村の隣に立ち、湯村の方から何か言ってくるのを待つ。

 やがて湯村は、その重い口を開いた。


「人を、殺した」


 二人の間を沈黙が流れる。

 佐倉は、湯村が言っていることを理解するまで数秒を要したが、ようやく飲み込むと言葉を紡ぎだした。


「人って人間……だよな」

「そうだ。他に何がある」

「殺したのか」

「そうだ。息の根を、止めた」


 湯村は佐倉の問いかけに短く答えた。佐倉は湯村の方へと向き直り、その詳細を聞き始める。


「相手は、普通の人だったのか?」

「いや、テロリストだったよ。この学校を襲ったやつらだ」


 佐倉は氷上に記憶を混乱するガスを吸わされていたが、湯村が情報を与えることで少しずつ記憶が整理され始めていた。


「小野が……死んだな。それはよく覚えている。それから、軍隊が突入してきて俺たちを助けたんだっけ。いや、違うな。小野が倒れた後、あの男達は誰かにやられた。金髪の誰かに……ん? 金髪の学生服の……」


 佐倉が湯村の方を向くと、小さな不良は頷いた。


「あれは俺なんだ。こんなことを言うとおかしくなったと思われるかもしれないが、超能力、みたいなものを使って、俺があのテロリストたちを倒した。……倒した、つもりだった」

「倒したつもり?」

「俺は、高速で身体を動かすことができるんだ。どういう理屈で、どうしてそんなことができるのかは知らねぇ。ただ俺は、小野が死んでカッとなった。それで、能力を最大限に引き出した状態で、テロリストをぶっ潰したんだ」


 佐倉は黙って湯村の話を聞いていた。


「別にいいんじゃね? テロリストだろ」

「倒しただけだったらな。俺達はテロの後、病院に収容されたよな。その時、偶然廊下の会話を聞いちまった。テロリストの人たちも、同じ病院に収容されて、重体だって。二人は首の骨が折れて、運ばれた時にはもう死んでたそうだ」

「……」

「俺が、殺したんだ」


 佐倉はしばらく湯村の方を見ていたが、一つ溜息を吐き出すと湯村に向かって言った。


「んーとな。俺もあの時の記憶は曖昧だ。今一瞬、お前があのテロリストたちを倒したような気もしたが、よく考えたら、お前だってあの時の記憶は曖昧なはずだよな。超能力とか、人殺しだとか、お前の想像だっていう可能性もある」

「いや、俺の記憶は」


 佐倉は答えようとする湯村を軽く手で静止すると、ファイティングポーズをとった。


「来いよ。その高速で動くってやつで俺を倒してみろ。お前が勝手な妄想を呟いているのか、俺が見極めてやる。俺から見ると、今のお前は夢でも見ているみたいだ。友人として見過ごせねぇ」

「いや、俺はそういう意味で言ったんじゃ」


 湯村のセリフは最後まで終わらなかった。湯村の腹に、佐倉の左ストレートが炸裂したからだ。


「ぐ……いや、直人」

「次行くぞオラァ」


 続けて佐倉が放った右フックは、湯村によって躱される。


「何すんだよ!」

「俺が勝ったらお前は超能力者でもなんでもない、ただの高校生だ。お前の言う人殺しというのは、記憶の混乱だ。忘れて生きろ。お前が勝ったら、お前は人殺しかもしれん。だが、あの時俺たちを救ってくれたのはお前ということになる。だからその時は胸を張って生きろ」


 湯村は佐倉をまじまじと見た。佐倉は笑っている。


「ゲームばっかやってウジウジ考えてっからそんなふうに落ち込むんだよ。いいからかかってこい! このド後ろ向き野郎」

「……仕方ねぇな」


 湯村はこの友人がいてくれることに感謝をしながら、学ランを脱ぎ捨てた。


「ルールは?」

「無制限。俺か、お前が倒れるまでだっ」


 湯村は高校に入ってからもグレ続けていたが、佐倉は中学まで手のつけようのない暴れん坊であった。二人の視線が合うと同時に佐倉の拳が湯村の顔をめがけて振り下ろされる。

 長身のバスケ青年から放たれるストレートはかなりの威力とスピードだ。湯村はそれを自前の反射神経でかわし、佐倉の腹めがけて回し蹴りを放つ。


「ぐうっ」


 回し蹴りを腹にくらい、佐倉は少し顔を歪ませた。湯村は一撃を入れて、一旦距離を置き、まだまだとばかりに軽くジャンプしながら佐倉の様子をうかがう。


「久々なんで忘れていたな。お前は反射神経と手の数。俺はスタミナと力。その勝負だったってなっ」


 佐倉は持ち前の脚力でステップを踏むと湯村の呼吸に合わせ、ラリアットをかました。その爆発力を予想して距離をとっていた湯村だったが、思わぬ誤差にラリアットをくらってしまう。


「っ……てめぇ、何か前より喧嘩慣れしてねぇか」

「バスケしかしてねぇよ。基礎体力の向上と言ってほしいね。ほらほら。超能力はまだでないのか。俺が勝っちまうぜ」


 友人の心を守るための喧嘩が始まった。

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