第二章②
昨日は誰にも会えなかった。今日ならいるかもしれないと菜々美は思い立った。段々、習慣化されてきているなと感じた。
もしかしたら迷惑になっているかもしれないとも思った。けれどもやっぱり気になった。今日行ったらもしかしたら理由が分かるかもしれない。淡いお思いを抱いて菜々美はもう一度、明音の家に向かった。
明音はまた来たのかと思った。何で来るんだ。単純に嫌がらせなのかと思い始めた。そう思ってくると負けるもんかと思う。
母親には調子が悪いとだけ言っておいてとお願いしておいた。あれだけ傷つけて、まだ傷つけ足りないのかと思った。また明日も来るのだろうかと思うと不安になってくる。こんな事をされ続けたらおかしくなりそうだと明音は思った。
次の日も菜々美は明音の家に行ったが明音は出てこなかった。こうも出てこないと段々腹立たしくなってくる。
顔の一つくらいみせてくれても良いじゃないかと菜々美は思った。理由があるんなら言ってくれれば良いじゃないか。何で言ってくれないんだ。
今日も母親が出てきて調子が悪いとだけ言われて帰ってきた。母親は申し訳なさそうな顔をしていた。それを見ると菜々美も申し訳ない気持ちになった。
もう行かない方がいいかもしれないと思うのだが、段々意地でも話したいとも思う様になっていた。
「明日、どうしょう」
と悩みながらも、もう一度だけ行ってみようと思っている菜々美だった。
明音の部屋がノックされる。開けるとお母さんだった。
「どう、学校に行く気になった?」
そう聞くと明音は横に首を振った。
「あの、菜々美さん一生懸命、通ってくれているね」
明音は反応しなかった。
「良い友達になれるんじゃない?」
そう言うと明音はムッとした顔をして布団の中に潜り込んだ。お母さんは何も知らないからそんな事を言えるんだ。何も分かってないとガッカリしていた。
「今度、話してみたら? 話したら何か変わるかもよ」
お母さんがそう言うが明音は無視して布団の中にうずくまった。ため息をついてお母さんが部屋から出て行く。
変わる訳がない。そう明音は思って心を硬く閉ざした。
次の日もやはり菜々美は明音の家に行った。そして、やっぱり会えなかった。次の日も行った。だがやっぱり会えなかった。もう何日目だろうか、それでも出てきてくれない。
明音もそこまで意地にならなくても良いじゃないかと菜々美は腹立たしく思った。でも逆にここまで出て来ない理由が余計に気になった。
こうなってくると菜々美も意地になって何が何でも会ってやると言う気持ちになっていた。
「こうなったら我慢比べだ。絶対負けてやるもんか」
明音の家の前で呟く。ふと上を見るとカーテンが少し開いているのが見えた。もしかしたら私の事、見ているのかなと思った。カーテンの間にいるような気がする明音に向けて睨み付ける。
「絶対、会うからね」
そう言って菜々美は今日も明音に会えずに帰っていった。
一体何なんだ、あの菜々美って子は!
明音はそう思った。一体何日目か分からないくらい来ている。なんで私に会うのにあんなに意地になっているのか分からない。そんなに私に嫌がらせをしたいのかと憤ってくる。
ふと明音はそもそもそんな理由で来ているのか疑問に思えてきた。そんな毎日来るなんて面倒な事をするのだろうかと。
「チョット、キニナル」
明音は少しだけ菜々美に会って見ようかなと思い始めてきた。
ところが次の日、菜々美は来なかった。
明音はその日、なんだか寂しい気持ちになった。もう、諦めたのだろう。これは明音の粘り勝ちのはずだった。だが、何だかすっきりしなかった。
「……」
自分の部屋の窓から外を見る。いつも学校が終わる時間に来ているのに来なかったのだ。
「アーツマラナイ」
と言ってふと思った。実は自分も少し楽しみにしていたのかもしれないと思った。そう思うと余計に寂しい気分になった。
「モウ、コナイカナ」
自分の気持ちに気づいた時にはもう手遅れになってしまった事を後悔した。