第二章①
宮本明音はあれから学校に行かなくなっていた。菜々美は心配になっていた。ちょうどCDを渡してからすぐに来なくなったのだ。何か悪い事をしたのだろうかと菜々美は不安になっていた。
(どうしたのだろう)
菜々美は明音の事が気になった。というより今までずっと気になっていた。
菜々美もこのクラスにはあまり馴染めていなかった。菜々美は正義感が強い為か明音をからかっているクラスメイトを見るといつも苛々していた。あまり明音の前では見せなかったのだが、クラスメイトを何人か注意していた。その内、煙たがれるようになっていった。
いつも一人でいる明音に声を掛けようと思ったのだが、耳が聞えない相手にどうやって接すればいいか分からず結局、声を掛けずにいたのだ。しかし明音の耳が治った事をきっかけに話すことが出来たのだ。
けれども、明音が来なくなってしまった。もしかしたら、明音が皆にからかわれていた事に気が付いてショックを受けたのかもしれないと菜々美は思った。
(一度、会いに行ってみようかな)
そう思ったら、菜々美は早速、行動に移す事に決めた。放課後、先生に事情を説明して、住所を聞いて、そのまま家に帰らずに明音の家に行った。携帯電話で地図を出して調べながら探す。地図で見ているのに中々見つからず困ったが、ようやく見つけた。
「やっと見つけた」
知らない家を探すと言うのは意外と大変な事だと菜々美は思った。
家を目の前にして立ち止まってしまう。何の連絡も無しに来ては不味かったかと、急に思い始めた。家も見つけたし、今日はここまでにしようかと思ったのだが、折角ここまで来たのだから勇気を出して行って見よう、と思い直した。
インターホンを見つめてしばらく止まる。
「よし」
と心を決めてインターホンを押す。ピンポーンと言う音が響く。
「ハーイ」
と知らない人の声が聞こえる。ドアが開くと明音のお母さんが出てくる。
「あのー一緒のクラスメイトで……」
そう聞くとその人は微笑を浮かべて
「心配してくれたのね、ありがとう。ゴメンね、最近、調子悪くて……」
と言う。何か風邪でもひいたのだろうか。
「また、学校で仲良くしてね」
そう言ってその人はドアの中に入っていた。菜々美は取り敢えず、今日は帰ろうと思った。明音の状況は分からなかったのが残念だったけれどもお母さんに会えたので良かった。
早く学校で会える事を楽しみにしつつ菜々美は明音の家を後にした。
明音は窓の外から菜々美の事を見ていた。やっぱり、私を騙したのだと明音は思った。わざわざCDで驚いたのを確認しにきたに違いない。そこまでして、からかいたのかと嫌になった。もう、クラスメイトは信じられない。学校にも行きたくないとさらに明音は心を閉ざした。
あのCDを聞いて以来、明音は学校が恐くて行けなくなった。外にも出ないでほとんど部屋の中で過ごしていた。食事と風呂、トイレ以外は自分の部屋に引きこもっていた。
ようやく菜々美が帰っていくと明音は安心して窓から離れた。
次の日、明音は来なかった。やっぱり、不登校なんじゃないかと菜々美は思った。風邪にしてはどう考えても休みが長すぎる。どうにか学校に来て欲しい、今度こそ、ちゃんと話をしたいと菜々美は思った。
(もう一度、宮本さんの家に行ってみようかな)
今度はお母さんが出てきたら勇気を出して事情を聞いてみようと思った。原因が分かればきっと解決の方法もあるはずだ。
放課後、菜々美はもう一度、明音の家に行ってみた。昨日も来たのでインターホンを押すにはさらに勇気が必要だった。けれども、何もしなきゃ始まらない。そう思って、インターホンを押す。
しばらく待ってみるが、何も反応がない。もう一度押してみる。けれども何も反応がない。どうやら留守のようだ。もしかしたら明音がいるかも知れないとふと思った。2回の窓の方を見る。カーテンで完全に閉じられていて何も見えない。
「宮本さん……」
小さい声で呟く。今日はどうやら出て来ないようだ。菜々美は諦めて、明音の家から去って行った。
今日は明音の母親はいなかった。明音は菜々美が来ていたのに気づいていたが無視していた。
「マタキタ」
明音が呟く。窓から菜々美の様子を伺っていた。そこまでして嫌がらせの結果を知りたいのかと呆れるような気持ちになっていた。そこまでして、人をからかって何が楽しいのか分からないと
明音は思った。
「モウ、コナイデヨ」
帰る菜々美の姿を見て明音が言う。こんな気持ちになるなら耳なんて聞えて無い方が良かったのではないかと思ってしまった。
「セッカク、ナオシテモラッタノニ……」
何もかも嫌になってベッドに倒れこむ。何でこんな事になったんだろう。こんなはずじゃなかったのに……。明音は悶々とした気持ちを抱えて枕に顔を埋めた。