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耳が聞えなかった少女  作者: 伊藤 孝一
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第一章①

 第一章



 ついに二学期が始まった。久しぶりに着る制服は布のすれる音がする。なんだが前の音の無い世界で着た制服とはまるで違う気がした。明音は嬉しくなってクルリと回った。するとスカートがフワッと浮き上がる。トンと足をそろえる。そのトンと言う音に明音はまた、嬉しくなる。ふと時計を見る。カチカチと音を出して時間を知らせている。


(こんな事をしている場合じゃなかった)


 自分の部屋から出て急いでダイニングに向かった。両親はもう食事を開始していた。


「アア、サキニタベテイル!」


 とまだ慣れていない声を使って文句を言うと、両親が呆れた顔をして


「貴方が遅いからでしょ」


「早くしないと学校に遅れるぞ」


 と急かされた。言いたい事はまだまだあったけど、言っていると本当に遅れそうなので仕方無し

に席に座って食事にする。


「イタダキマス」


 と声を出して手を合わせる。そしてパンを取ってかぶり付く。ムシャムシャと言う音が耳に聞えてくる。匂いが無いと味が変わると言うが明音は音があるのと無いのとでも味が変わると思った。音がある事で食事がにぎやかになり、美味しくなったような気がした。


「オイシイ」


と私が言うお母さんがニッコリと笑う。明音は声を出すのにまだ慣れない。けれども、出来るだけ声を出すようにしている。少しでも早く上手く発音できるようになって友達と一杯おしゃべりをしたいからだ。その日を想像すると嬉しくなって顔がほころんだ。


「なに笑っているの?」


 そう聞かれて、首を横に振る。変なところをお母さんに見られてしまったようだ。


「そろそろ、行って来る」


 そう言ってお父さんが立ち上がる。


「オトウサン……イッテラッシャイ」


 私がそう言うと微笑を浮かべた。


「じゃあ、行って来る」


 とドアをバタンと閉めて仕事へと向かった。あんなに大きな音を立てて行かなくてもいいのにと思った。明音はその音にいつも驚いてブルッと体を震わせてしまうのだ。


「そろそろ、学校に行く時間よ」


 とお母さんに言われる。壁に掛けてある丸いアナログ時計を見るとそろそろ家を出る時間になっていた。


(そろそろ急がなくちゃ)


 手早く今、食べているパンを平らげる。カバンを持って急いで玄関に行く。カバンの中身はすでに確認済みだ。


「慌てると転ぶわよ」


 とお母さんに言われたがそんな事はなかった。玄関まで行って靴を履く。キュキュと靴がこすれる音がする。そして立ち上がるとタンと音が鳴った。


「いってらっしゃい」


 と見送られてドアを開ける。朝日がまぶしい。その光が明音には希望に満ち溢れている光に見えた。


「イッテキマス」


明音は笑顔でドアをバタンと閉めた。

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