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第1話―策、回転、終わり―

一応の落ち着きを取り戻したことで状況を整理する。


今自分は事件に巻き込まれている。それはどうやら小波を狙うものであった


らしく、小波をおびき寄せる前段階の無差別攻撃に運悪く巻き込まれた。


別に俺自身、あるいは不二家が狙われたわけではなかったようだ。


そして小波の到着。小波がゴスペルの一員であることには驚かされた。


それは決して口だけではなく、あの場慣れした動きがその信憑性を高めている。


経験と訓練にに裏打ちされたそんな動きだったようにに思える。


そんな小波優とそれを狙ってこの街に襲撃をかけてきた京楽 漁火。


今この場にいるのはそんな常人を超越した能力を持つ2人の戦力。


窓ガラス越しに外を覗く。


路地裏から姿を現した京楽が今まさに小波に詰め寄らんとしていた。


「なア、スパイラルゥ。オマエが強いのは百も承知だァ。だがそれを


知った上で何でオマエに正面から戦いを挑んだと思う?」


京楽の口角がつりあがる。


「それはなァ、オマエの能力と俺の能力の相性が限りなくイイと


踏んだからだよォォ!!」


瞬間、爆発するように京楽の中華なべから四方八方に向けて槍が発散した。


すばやい動きで小波は距離をとって回避する。


槍は空ぶった、かに思われた。槍が突き刺さった部分をよくみる。


(すべて鉄ーーーー!)


つぶれた自動車、ひしゃげた街灯、ランプの消えた信号機。


刺さった槍がドクン、と生き物のように脈動する。


それらは次第に形を失い、液体のように溶けていく。


効果範囲は鉄のみのためか、ガラスや、ゴムなどの不純物はその場に残された。


発散した槍が新たな材料を伴い、京楽の元へ戻っていく。


溶けて形を失ったそれらは一つになり京楽を包み込むようにして再び形を取り戻す。


そうして一つの要塞が出来上がった。


鋼鉄要塞フルアーマー。こいつでテメェをぶち殺す!」


外見は西洋風の騎士といった出で立ち。分厚い鉄の装甲が京楽の体を覆っていた。


しかし、騎士なのはあくまで外見だけで中に入っているのは騎士道精神とは


遠くかけ離れた醜い野獣だ。


品のない叫びが鎧の中から聞こえてくる。咆哮を伴って攻撃は再開された。


騎士のよう、とはいうものの、その腕に槍や剣といった武器はない。


もつ必要がないのだろう。なぜならーーーーー


京楽を包む鎧がグネグネと変化を始めて肩口当たりから鋭い槍が数本飛び出す。


全身が武器のようなものなのだから。


飛び出した槍が案の定小波を付けねらう。


当然のように小波はこれをかわして前に出る。同時に発砲。


銃弾が京楽に直撃するもやはり微動だにしない。


「無駄無駄無駄ァァ!そんなチンケな銃じゃあ今の俺は倒せねえヨ!」


そんなことは小波にも分かっていたことだろう。


眉一つ動かさずひたすら、前に出る。


その動きはスタント張りの動きで当たり前のように襲い来る


すべての鉄槍をかわしていく。


そして時折混じる不自然な小波の動き。


避けられないと確信した攻撃が何度かあったのだが、そのたびに小波の体が


重心や重力といった概念を無視した動きで不思議とそれをかわすのだ。


それが一体何なのか。


最初はわからなかったが何度も見ているうちに俺は一つの仮説を得る。


「回転、か」


不自然な動きを見せるその直前、小波の手は必ずどこかに触れている。


それは建造物の外壁であったり、京楽の放つ槍であったり。


そしてその動きは決まってそこが軸になって手が張り付いたように動かない。


決して自由に空を舞えるわけではない。


どこかしらの軸が必要なのだ。


そしてその軸を自ら作り出し、活用することであの三次元的な動きを可能としている。


それが小波の動きのギミックだ。


その動きについていけないためか京楽の攻撃はなかなか当たらず、小波の進撃は


止まらない。


状況は小波が優勢。


互いの距離は見る見る縮まり、重装甲が仇となり、その場から


動けない京楽に小波が迫る。


だが、事はそう簡単には収まらなかった。


「ナメンじゃねぇ!!」


放った鉄槍、それがすべて勢いよく中心点たる京楽の元に


ヒュン、とDVDの巻き戻しのように戻っていく。


それらがすべて収まり元の鎧に戻ると同時、今度は全方向に狙いも


つけず見境なく槍が斉射される。


なかなか当たらない攻撃。


それでも数を打てば当たるといわんばかりだそれはハリネズミのように


周囲に拡散していく。


一本一本は先ほどまでの槍より細いものの、数が圧倒的に多い。


「くっ!」


さすがの小波も全てをかわしきることはできなかったらしい。


無数の槍のかわしきれない数本が体に突き刺さる。


腹部に一本。左肩に一本。


うち、左肩に刺さった槍は太く、それに見合う相応の量の血液が噴出


していた。


咄嗟の判断だろうか。


その突き刺さった左肩の槍を引っつかみ無理やり動かし、体ごと後ろに


移動して引き抜く。


痛みをものともしないかのように小波は叫び声をあげなかった。


傷をえぐる痛みは相当なものであっただろうに。


しかし、俺の方もそうのんびりと観察している暇はなかった。


京楽の放った無数の槍。


それは俺の潜むビルにも飛んできた。


殺傷力は落ちるものの貫通力はどうやら変わらないらしい。


それは辺りのビルの外壁をやすやすと貫く。


無論、それは俺のいるビルも例外ではなかった。


「っ!硬化ハーディス!」


反射的に能力を使って辛うじてそれを防ぐ。鉄すら防ぐ壁。


文字通りの鉄壁。


ガキンッという派手な音とともに壁はその攻撃を防ぎきった。


「ナルホドなぁ、あのガキはそん中か。」


…………チッ、防いだはいいもののこちらの位置を捕捉されたか。


内心で舌打ちする。


正直なところ俺はこのまま何もせずにゴスペルの増援が来ることに期待


していたんだが見つかった以上そうも行かないだろう。


となればベターな選択は打って出て時間稼ぎ。


よりよいベストな選択は倒してしまうこと。


今手元にある材料を考察する。


先ほどとは大きく違う点がひとつ。


(小波 優、か)


これは使える。あの戦闘力だ。


こちらはジョーカーを手に入れたといっても過言ではないだろう。


そして、俺のこの硬化ハーディス


カチリ、と歯車がかみ合ったような音が聞こえた。


この場を切り抜けるための最善の式。


それに伴う解が導き出される。


将棋やチェスでいうなら終局間近の詰みまでのルートが見えた状態。


プランは整った。


後はうまく実行に移すのみ。


そんなある種の確信を持ち、俺は意を決してビルの半開きになった


自動ドアから外に出る。


「あんた、本当に見境がないな。襲われるこっちとしてはいい迷惑なんだが。」


「テメェにゃぁでっかい借りがあっからナァ。そう簡単に逃がすわけにはイカネェよ。


全身ブッスブスに穴だらけにしてェ!全身グッチャグチャにしてェ!


体の肉をすり潰してひき肉にしてやんねェと俺の気がスマネエんだよお!!」


「……頭の悪そうな発言だな。だから俺にいいように転がされるんだよ。」


「ナニィ!?」


「忠告してやる。捕まりたくなかったら今から豚のように必死で逃げ回れ。


まだ向かってくるというのならお前、俺達に倒されるぞ、鉄屑スクラップ


「ッ!クソガキがぁ、いわせておけばいいたいだけいってくれんじゃねぇのぉ」


怒り心頭といった様子で京楽はうつむいてなにやら物々呟いている。


随分勝手な物言いであったと思う。


先ほどまで逃げてばかりいた人間が突然牙をむくことを宣言したのだから。


そして自分の守るべき対象が突然こんなことをいっては小波が噛み付くのも当然だった。


出血の激しい左肩を抑えて小波がいう。


「……貴様、本気か?これはゲームじゃない。正真正銘の殺し合いだ。


そこに民間人を参加させるなどーーーー」


「小波、お前の能力は物質を回転させることで間違いないな?」


だから二の句を継がせぬよう、小波の言葉を無視して今必要な情報を小波から引き出す。


そして自分の仮説が正しく、作戦に支障がないことを確認する。


「お前のその能力でヤツの鉄槍の軌道を曲げることはできるか?ヤツ自身に向くように」


「だから、人の話をーーー」


「今はそんなことをいっている場合じゃない。質問に答えろ。できるのか、できないのか?」


まるで威圧するかのような傲慢な俺の言葉に小波はやむなく自分の言いたいことを飲み込んだ。


そして俺を冷たい目で一睨み。


「………できる。あの鉄の槍は先端は硬いものの、中間の部分は常に形を変えるために


曲がりやすくなっている。


だがそれでヤツ自身を狙ったところで意味はない。


多少のダメージは与えられても決定打とはならないだろう。


ヤツ自身も同じ鉄の鎧で守られているのだからな」


「その決定打を作り出してやる。おそらく次にヤツが狙ってくるのは俺だ。


その第一撃を狙う。ヤツは槍で俺を狙って来るだろう。


俺がそれを避ける。そうしたら俺が触った槍の方向をヤツに向けて曲げろ。いいな?」


「だから、あの槍で鎧を貫くのは不可能だとーーーーーー。」


「いいから、やれ」


そういい切って俺は前に出る。知らず、冷たい声が出る。


否が応でも従ってもらわねばならない。


これからすることには少なからず俺自身もリスクを背負うのだから。だが、それでいい。


リスクを背負わずしてリターンを得るなど虫がいい。リスクを背負うくらいがちょうどいいのだ。


小波はさぞ困惑していることだろう。素人に根拠もない戦術を提案されてそれをやれ、と。


しかもそいつは一向に話を聞かない捻くれた自分の同級生。


自分でやっておいていうのもどうかと思うが俺ならば殴り倒すレベルだ。


それでもおそらく小波は実行に移すだろう。すでに状況は動き出している。


実行に移さなければ逆に俺の身が危ない。


思うところはありつつも小波は俺のいったことを実行せざるを得ない。


民間人たる俺が危険な前に出る。


民間人を守るために戦っているであろう小波にとってはある種の脅迫だ。


京楽と正面から対峙する。


目の前の京楽の鎧の兜越しに見える目には殺意が迸っていた。


狂気に走り、理性のすっかり壊れた狂人のどす黒く濁った瞳。


「コロス」


その声色は恐ろしく低く、聞くものに恐怖を与えた。


背筋を冷たいものが走り抜ける。


俺が煽った効果があったか、読みどおり京楽は第一射のターゲットに俺を選んだ。


その背中から無数の槍が一斉に解き放たれる。


ホーミングミサイルのようにそれらは全て俺の方へむかってきた。


「覚えておけ、京楽。ゲームでも試合でも殺し合いでも。勝負事全てにいえることだけどな。


負ける人間に一番多いのは理性を失って感情が先走るパターンだ。」


その槍の動きは速いもののすべての動きが単調で、あらゆる角度から


迫るものの、一様に俺の頭を狙っていた。


「人間と獣の違いは理性があるか否か。」


その程度なら並の運動神経しか持たない俺でもかわすことは児戯にも等しい。


「怒り、理性を失えば人はただの獣と化する」


横に少し移動して軽くそれらをかわす。そのすれ違いざまに不揃いな大きさの


無数の槍の中で大きめの一本の先端に手を触れる。


「そして獣じゃあ、理性を持つ人間には勝てない。」


その一瞬で能力チカラを行使する。


これが、ヤツの自信と戦力を奪う決定打への布石。


「俺みたいな『人間』からすればお前みたいな直情思考の人間が一番扱いやすいよ。」


打ち合わせどおりに俺の横を通りすぎたはずの槍が軌道を変えて京楽の元へ向かっていく。


小波はどうやらうまくやってくれたらしい。


よくもまあ、いうことを聞いてくれたものだ。


と一方で思いつつも他方ではまあ緊急事態だから当然か、と異なるもう一つの答えを出す。


「ッ!カウンターだと!?」


突然のことで槍の制御を失ったのか、京楽のもとに向かう槍はその速度を緩めない。


鋭い切っ先は空気を切り裂いて主人に逆らう。


重装甲のために京楽のその体は満足にその場から動けず、受け止めるしかない。


それでも京楽が抱くのは絶対の自信。


「だがなぁ、俺が身にまとってるのは同じ鉄だ。そんな俺に鉄の槍が効くわけねぇだろうが!


このマヌーーーーーーー」


グサリ、と肉が突き破られる音がしたような気がした。


言葉は最後まで形を成しえなかった。鎧をまとった京楽の腹部。


そこには確かに鉄の槍が突き刺さっている。


鎧のわずかな隙間から刺さった槍を伝って血が滴り落ちる。


京楽がその場に両膝をつくその表紙に頭部を覆っていた鉄兜が脱げて


ガラン、と地面に落ちた。


兜の下にあったその顔は信じられないものを見るような目で自らの腹部を


呆然と眺めている。


「な、なんでだ……」


「そんなことにも気づけないからこういう結果を招くんだ」


理屈は単純。槍の先端を俺が硬化してやっただけだ。


同じ鉄で身を守る自分にそんな攻撃は通じない。


その思い込みがこの失策を招いた。


京楽は俺が能力者であることをあらかじめ知っていたのだからその点を


もっと留意すべきであったのだ。


俺が前にでた時点で何かあると疑ってかかるべきだった。


両膝を突いた京楽の体がフラリと傾ぐ。


槍が突き刺さったまま京楽の鎧に包まれた体は横に倒れた。


「逃げていた方が賢明だったな。」


聞こえないその身にもはやどうにもならない選択の過ちを突きつける。


仮に逃げていたとしたら自分はこんな目にあう必要もなかったのだろうか。


そんなことを仮にこの京楽が考えていたとしてもそれはもう詮無いこと。


後で悔いると書いて後悔。


どこか捨て台詞じみた俺の言葉。虚空に消え行くはずのそんな言葉を


「それは貴様も同じではないのか、角川 七音。」


小波 優が、拾いあげた。


「いくつか質問がある。」


「答えられる範囲でなら」


気絶して地に横たわる京楽を見下ろしながら小波の言葉に応じる。


「何故こんな無茶をした?何故おとなしく隠れていなかった?


何故京楽に狙われていた?」


「……………何故、ばかりだな」


「そして何より、最後だ」


一拍おいて


「ーーーーーー何を、した?」


こと最後の質問に至って俺はようやくまともな返答を返す。答えないという答えを。


「答える義務は俺にないな。そんなことはどうだっていいことだろう。


過程はどうあれお前は騒動を治めることができた。


俺の危険も回避された。


結果を見ればひとまず万事解決といったところじゃないか。それにーーーーーー」


一呼吸おいて俺は小波の方を振り向く。


「聞かれたくないことがあるのはお前も同じなんじゃないのか?」


それは当を得た発言だったのだろう。


相変わらずの無表情のまま小波は何もいわず立ち尽くしていた。


牽制しあうかのように俺と小波の視線がかち合う。


値踏みするような目で小波は俺を見ていた。


それは俺の方も同じで小波をまじまじと見つめる。


互いが互いに暗黙の了解を得た人間観察。


物音一つなく、その場をただ沈黙だけが支配していた。


そして得た結論は俺にとってあまり好ましくないものであったように思う。


浮かんできたイメージは鏡。


直感的に悟ってしまった。






小波 優はどこか人間としてのタガが外れた自分と似ている節のある人間である、と。






そんな事件現場の重苦しい沈黙を断ち切ったのは遠くから聞こえてきた


複数のサイレンの音だった。


それは徐々に音を大きくして付近に近づいてくる。


やがてブレーキ音。


最初に到着したのは灰色を基調にした車だった。


それが複数台。


こんな現場に一般車が来る事はなく、かつ、複数台とは組織的なものである


ことの証明。


しかし警察ではない。


バタバタとドアの開閉する音に続いて中から次々に軍人じみた


近未来装備に包まれた人々が出てくる。


対衝撃緩衝スーツ、フルフェイスの銃弾すら弾いてみせる頑丈さを


誇るヘルメット。


肘、膝等の関節部には保護サポーター。


一見軽装に見えなくもないそれらは外見に反した防御力を誇り、


かつ、装着者の動きを極力阻害しないようにできている。


それらは対能力者を想定した装備である。


そう、彼らこそがこの街の能力者関連の事件を担当する組織、ゴスペル。


続く彼らの行動は迅速で訓練された動きでテキパキと救助活動を始めた。


瓦礫の下に埋もれた人、車の中で気を失っている人、


壁にもたれてわずかな呼吸をする人。


それらは担架に乗せられてすぐ後に到着した救急車に運び込まれる。


遅れてゴスペルの車の一つから一人だけ服装の違う白衣を纏った


長身の男が出てきた。


年は30代といったところか。


一目でこの中で偉い人間であることが伺えたものの外見はとてもそうは


見えず、髪は整っておらずボサボサでいかにも洗髪した後放っておいたままですと


いった風。


無精ひげもその威厳を削ぐのに一役買っており状況を見ず、見た目だけで


判断するならそこらにいる無職の中年親父と大差はない。


「おっかーれさん、優」


その男はこちらに歩いてくるなり小波を労った。


「名暮……」


「後始末は俺らに任して後は下がっていいぜ。治療しなきゃいけんだろ?」


妙な言葉遣いの名暮と呼ばれた男は小波に下がることを促した。


事実今もまだその痛々しい傷口からは出血が続いている。


止まることなくドクドクと。


見れば制服の色の黒の割合が随分増えたように思う。


「………あのビルの中に一人女子高生が倒れているから


この男子高校生ともども保護を頼む。」


「あいよ、頼まれたー」


男がひらひらと軽い調子で手を振る。


小波は腑に落ちない、納得できないといった表情をしつつも


静かに去っていった。


………これは少し面倒なことになるかもしれない。そんな予感がした。


「じゃ、行こうぜ少年。つっても少年は怪我なさそうだな」


「なんとか、ですが」


「ふぅん、運がいいねぇ。あ、優のいってた女子高生の場所分かる?」


「はい、知ってますよ。」


「そかそか。じゃあそこまで案内してついでに運ぶの手伝ってくんない?」


「……いいですけど。でも自分で運ばずとも部下の人に命令すれば


いいんじゃないですか?あなた、結構偉いんでしょう?」


「お?分かっちゃう?偉いオーラにじみ出ちゃってる?」


「単なる状況判断です」


「タッハー、きっついなぁ最近の若者は」


おどけるように男がいった。……言葉遣いといい性格といい、どうにも


癖のある人物のようだ。


と、自分の癖とも言える人間分析をついしてしまう。


「んー、まあそうなんだけどさ。でもほら、優と約束したし。


俺が運ぶって。


それに若者と運動する機会って俺にとって貴重なのよ。


人助けと思って手伝ってくんない?」


「………まあ、そのくらいなら」


不二家を運ぶくらいなら引き受けてもいいだろう。


そもそもが乗りかかった船だ。


途中で不二家を放り出して人任せにするのはなんとなく後味が悪い。


「ほんじゃあ、案内よろしくー」


「そういいつつ先導するのは矛盾があるかと。場所、分かるんですか?」


「お、そうだった。つい先走っちまったぜい」


ふぅ、と一つため息をつく。本当に読みにくい性格だ。


そしてなによりふざけてる。俺は心の内で毒づいた。


「………こっちです」


そういって案内を始める。そんな何気ない会話を交わして思う。


一つの事件は収束をを迎えたのだという実感。


かくして危機は去り、日常へと舞い戻る。


終わったからこそ思うことだがとても刺激的な経験だった。


自分に向けられる殺意、悪意、敵意。


決して日常では経験しえない安全装置のないスリル。


こんな経験そうはない。


と、考えれば俺は貴重な経験をしたのかもしれない。


結果からいえば自分は後遺症一つなく切り抜けることができたのだ。


今回のことは不幸と捕らえず幸運とポジティブに考えてみるのも


いいかもしれない。


非日常から日常へと思いを馳せる最中、のんびりと俺はそんなことを考えていた。



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