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第2話―――戦闘と決着―――


大宮が攻撃の準備として周囲の土砂に指示を出す。途端、それに呼応して多くの土が隆起して一つ、また一つと土の球体が形成されていく。今までとは段違いの弾丸の数。


展開されたそれらが大宮の合図で一気に小波に牙を剥く。


すぐさま小波は回避行動に移り、遮蔽物の多い道路脇へ。妥当な判断だったと思う。


茂み、大木と遮蔽物の陰から陰へと移動の合間に発砲してけん制しながら決して正面から打ち合わないようにする対して、大宮は小波と違って大仰な動きは必要ない。


迫り来る銃弾は土壁が遮り、叩き潰す。合間を縫う小波の攻撃はわずかなもの。


圧倒的な火力でじりじりと小波を追い詰めていく。


小波の銃は2丁。マシンガンのような連射式ではないどちらも単発式のものだ。


その程度の火力であの弾幕に正面からぶつかるなどアリが象に挑むようなものだ。


大宮の放ったあの弾幕はそれだけ恐ろしいものであるといえる。しかしそれゆえに。


再装填、リロードには時間が必要となる。弾丸が切れたその一瞬、小波は大木の陰から顔を出して大宮に反撃を試みる。


小波の弾丸が空気を切り裂いて大宮の四肢を狙う。届くかと思われたその攻撃はだがしかし、再び大宮の前に現れた壁に阻まれた。柔らかだが分厚い土の壁に弾丸がズブリとめり込み、その勢いを吸収されて次第に推進力を失い、停止する。


そして、その壁はすぐに分解されて、先ほどと同じような土の弾丸が質量に応じた数だけ量産されて再び小波の潜む大木へと照準を定める。小波の寄り添っていた木の幹は先の攻撃を受け、ボロボロと表皮が剥げている。今度の攻撃は広範囲にわたる無差別なものではなかった。今度は一気ではなく、連続的に途切れを見せないようにその群れが放たれる。


弾丸が大木の幹を集中して狙い撃ち、穴を穿つ。大木の耐久度は目に見えて下がっていき、ついには倒壊。ベキベキ、と耳障りな音を立てて道路をまたぐ方向、大宮の位置から少し横にずれる形で大木が傾いていく。


大宮はその木の向こうにいるであろう小波を残った弾丸で仕留めんと悠然とした動作で構える。


だが、大木の陰であった場所にすでに小波の気配はなかった。そんなときに俺の目を引いたのは倒れかけている大木の周囲を飛び交う一つの影。枝から枝へ、小波が飛び移っていく。


最後のワンステップ。小波が枝を今までよりも強く、思いっきり蹴り上げ宙を飛んだ。


バインッと踏み切りに使われた枝が大きく上下に揺れる。大宮の上方。


意識が完全にそがれた角度からの奇襲に大宮が若干焦った表情をみせる。


上空から飛び掛る小波の銃口が確かに大宮を捉えた。放たれる2発の鉄塊。タタンッ、とわずかな時間差で銃声が続いて響いた。


どうにか反応しきった大宮が大木の陰にいる小波を狙うはずだった小波を狙う弾丸の方向を無理やり上空へと修正する。


狙ったわけではないだろう。その多数放たれた弾幕の数発が小波の頬を浅く切って切り傷をつける。


小波の放った銃弾も土の球に衝突してその進路を変えて、標的からそれて地面へと突き刺さる。


「グッ━━━━━━!」


だが小波の放ったもう一つの本命は土の弾幕を潜り抜けて大宮に到達して狙いあやまたず、大宮の右太ももを貫いていた。


周囲にわずかに飛び散る鮮烈な赤。苦痛に顔をしかめる大宮。


小波がそれを見てさらなる追撃を加えんとして着地して落下の衝撃を殺した後、大宮に向けてその体が疾駆する。


大宮と距離を置くのはベストではない。この機を逃さず一気に決めるつもりなのだろう。が、大宮もその辺りはしっかり自分の肝に銘じているらしい。


とっさに距離をとるためか足をかばってうずくまりかけたその姿勢からさらにしゃがみこんで地面の土砂に手を触れる。


途端に大宮のしゃがみこんでいた位置が爆心地と化す。


土が放射状に吹き飛び、辺り一体に広がり、拡散した。まるで爆弾。


その衝撃に耐え切れず、小波が立ち止まって顔の辺りに両手を持ってきてその爆発をやりすごす。


わずかに生じたタイムラグ。その間に大宮は痛む足を無理やりに引きずって小波から距離をとった。


無傷の小波。負傷した大宮。徐々に小波に傾きかけた形勢。


その形勢は大宮の陣取った位置によって再び揺らぎを見せる。


大宮の移動した先には山上より流れてきた大量の土砂がある。そこはトンネルだった場所の入り口。


さらにいうなら今も救助を待つ多くの乗客を乗せたバスが埋没した位置。


そこで大宮の表情には嘲りにも似た表情が浮かんだ。


「くっくっくっ。これで僕の勝ちは揺らがない」


小波が大宮の方へ再び距離をつめようと走り出そうとする。その一歩が地を蹴って推進力に変えようとした瞬間だった。


「おっとぉ、動いちゃだめだよぉ?、スパイラルさん」


ドドドドッという小規模な土砂崩れが山上で起きてバスを襲った。


パラパラ、と少量の土砂が倒れた車体にさらにのしかかる。


「これがどういう意味か分かるよねぇ?それ以上動いたら………………落とすよ?」


実際には俺の硬化がまだ効力を発揮しているためにバスが落ちる、ということはない。


この事実を小波は、いや、脅迫している大宮本人も知らないだろう。


いかにもな悪党らしい脅迫。それはシンプルであるがゆえに効果は絶大だ。


人命優先で動いている小波はその指示に従うしかできない。大宮がニタリと快楽の笑みを浮かべる。戦場は大宮が主導権を握ることによって一気に静かなものになった。


人質をとられたことによる圧倒的小波の不利。


しかし、これはチャンスだと俺は踏む。気づかれないように俺は茂みの裏を移動してバスへと近づいていく。


「まずは後ろを向いてぇ。それからその物騒なのを地面に置いてねぇ。そうそう、ゆっくりゆっくりぃ。振り向いて打ったらあの人たちの命はないからねぇ」


小波がおとなしく指示に従って銃を置く。大宮はせせら笑うように自分が人質の命を握っているのだと小波に念をおした。


「じゃあ、それを蹴り飛ばしてぇ」


「………………」


「もう一個もぉ」


ガガガガガッと硬いものが引きずられる音とともに2つの銃が遠くに滑っていく。


丸腰になった小波。それでも小波の表情は変わらない。そこには恐怖も悔しさも怒りも何もかもが浮かんでいなかった。


それは見ている俺にある別種の恐怖と嫌悪を与えた。


「さてぇ、これで君は丸腰になったわけだけれどもどうしようかなぁ。あ、一応いっとくと君を逃がすかどうか迷ってるわけじゃないからぁ。あ・く・ま・で君を殺すことは前提だよぉ?」


ハッハッハッと、大宮は心の底からおかしいとでもいった風に痛む足にも構わず腹を抱えて笑い出した。


その耳心地の悪い笑いが収まりかけると同時にポコリ、と大宮の足元の土が浮かび上がって一つの土の弾丸を形どった。


無重力空間にある水のように大宮の顔の高さまで浮かび上がると弾丸はふわふわと微妙に高度を変えつつ滞空した。


「ま、とりあえずは」


大宮が先ほど傷つけられた今もドクドクと生々しく出血を続けている右足の傷口を見遣る。


「さっきやられた分のお返しはしなくちゃねぇ?」


攻撃が放たれようとしたその一瞬。それを俺は待っていた。ガサリ、と派手な音を立てて茂みから一挙に飛び出す。完全に小波に意識を向けていた大宮はさぞ驚いたことだろう。


まるで銃声を聞いた野生の獣のような機敏さで大宮が茂みの方を振り向いた。


勢いのまま放たれた土の弾丸は小波に当たることはなく、足元の土砂を跳ねさせるに留まった。茂みからその進路へと。闖入者の姿を求めて大宮の目が横に動く。


その目が捕らえたとき、すでに俺はバスへと到達していた。辛うじて露出した車体の後部。


雨にすっかり温度を奪われたその鉄塊に片手を添えて再び力を行使する。


これでバスは安定を取り戻す。大宮はやっと気づいたとでもいうように呟いた。


「そうかぁ。そうだったんだぁ。おかしいとは思ってたんだよねぇ。あれだけの土砂が上に乗っかっているのにバスが潰れないこととか、僕のかわせないはずの一撃を防いだこととかぁ。能力者だったんだねぇ、君。驚きだなぁ。でも何より驚きだったのはねぇ」


大宮が一度言葉を切って続ける。


「こうしてわざわざ僕の前に戻ってきたことかなぁ。ま、僕としては嬉しいことだけどぉ?あとで探し回って殺すような手間が省けたからねぇ!!」


ポコッポココッとそこここで俺を殺すための凶器を生み出す音がする。音は止まらない。


際限なくあたりに無数の球が浮かび上がっていく。


しかし、何の策もなく俺は無意味に特攻したつもりはない。策は当然用意してある。


俺の持つ最大最強の武器。それは戦略だ。


「俺がただやられるために出てきたとでも?」


触れた片手で再び硬化範囲をコントロールする。対象は上から落ちてくる土砂を支える土。


その角度をいじる。上にはパラパラと今にも滑り落ちてきそうな土砂。ちょっとした衝撃や変化があれば過敏に反応して再び災害を撒き散らすだろう。


それを支えている俺の硬化の角度を大宮に向くように周辺の土をコントロールする。ズッ、ズズッという不吉な音。


その音は加速度的に大きくなっていく。


「なっ━━━━━」


大宮が引きつったかのような声を出すのが分かった。大宮にとって俺は弱い鼠だ。


その鼠がここまでの反撃を用意しているとは夢にも思わなかったのだろう。


焦燥がその顔を彩った。


一度は動きを止められた土石流が獲物を求めて再びうなりをあげる。


土の巨躯は大宮の用意した土の球を軽く飲み込み、そんなものではまだ足りない、もっと寄越せといわんばかりにさらに大宮に向かっていく。


「な、なめるなぁぁぁぁぁ!!!!」


咆哮とともに大宮が波を受け止めるかのように両手を突き出す。


物理法則をすっかり無視した光景が目の前に繰り広げられる。


迫り来る災厄を大宮は自分の頭上を通すようにして受け流した。


しかしこの時点ですでに俺の狙いは達成されていた。


俺の前には大宮に向かわずに流れてきた大量の土砂。


これで大宮と俺は完全に分断された形になる。


土をコントロールできる大宮にとってこんなものは障害にならないだろうが向こうには小波がいる。


時間稼ぎはしてくれるだろう。あとは救援がくるまで俺がこのバスを支えていればいい。


ここまでが俺の考えていたこと。


だが。


ことはそれだけで収まらなかった。


俺の想像を超えた行動をするヤツが、一人いた。


流れ落ちてくる土石流と受け流す大宮の反対側につみあがる土砂の山。おびただしい量のその土砂の山がブワッと周囲に飛び散って風穴が開いた。


人間が一人その穴から飛び出してくる。


「小波!?」


これは俺も予想だにしていなかった。それは大宮も同様らしい。表情に張り付いてい余裕が完全に消えうせて、入れ替わるように焦燥が浮かぶ。


「う、うそだろぉ?」


その動き、疾風のごとく。瞬時に大宮の懐に入り込んだ小波が冷ややかに告げた。


「覚悟はいいか?」


「ちょ、ちょっと待ってぇ!今僕の意識を飛ばしたら君だってこの土砂に━━━━━━」


大宮の言葉は最後まで意味を成さなかった。身を低く沈めた小波が大きく一歩を踏み出して力強く大地を踏みしめる。


ビシャリ、と泥と雨水が大きく跳ねる。溜め込まれた力が一気に解き放たれる。その力が存分に込められた右の拳が大宮のあごを正確に射抜く。


綺麗なアッパーカットが決まった。そしてそれはただのアッパーカットではないのだろう。


大宮の体がきりもみ状に回転する。尋常ではない回転量だった。


大宮は地面に接地しても止まらず、バスケットボールのように跳ねて地面に触れた瞬間、不自然に加速してさらにバウンドを繰り返していく。2回、3回、4回。


それでも止まらず、茂みの向こうにある山に沿うように配置された石壁にベチャリ、と激突することによってようやくその勢いが収まった。


「………………」


お、おそろしい。その様を眺めていた俺は素直にそう思った。


顎に衝撃を受けた上であれだけ体を回転させられて体内を揺さぶられればとても意識は保っていられないだろう。


現に石壁の近くに倒れ伏している大宮はピクリとも動く様子はない。


死んだのではないかと思えるほどだ。いや、今はそんなことよりも小波だ。


大宮の制御を失った土石流。その制御の只中に残った小波だ。


仕留め損ねた獲物の代わりに、とそれが小波に襲い掛かる。


だが、どうにもまったく心配のいらない事柄だったようだ。両手を前に出す小波。


能力を使ったのだろう。小波を中心として土の津波は周囲に弾け飛んでいく。


まるで扇風機。土砂が俺の方にまで飛び散ってきて微小な被害を受ける。


しばらくするとそれも止み、上から流れてくる土の勢いも徐々に弱まっていく。


そして土砂崩れは完全に止まった。

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