序章
「お前ら全員、俺の肉壁となって死ね」
敵地の眼前、砦の中。
新進気鋭の黒鉄傭兵団は、絶体絶命の状況に追い込まれていた。
傭兵団200人に対し、敵軍3000。もはや友軍の援助も期待できない。
というより、この戦は、初めから勝ち目などないものであった。
もとは、ヨマルケ帝国・貴族ザルツ・カイステル伯爵が原因であった。
カイステル伯爵は、同盟国であるロングスト王国と領土を近接している。
彼は狩りの際、欲にまみれ、その国境線を超えた場所で活動をし、敵国の領民を弓で誤射してしまった。
その謝罪の際、伯爵はこう言い放った。
「たかが領民一人のために、我らと戦争をする度胸は、よもやあるまい」
これを聞いた王国は激怒。同盟は破棄され、即時開戦。
帝国もこの事態を重く見て、軍の派遣はなし。そこで伯爵は藁にも縋る思いで傭兵団に声をかけたのであった。
しかし、圧倒的な戦力差、士気の差によって瞬く間に追い込まれた伯爵軍。
彼は、傭兵団を前線に出し、砦の防衛と称して、自分の命を守るために使い捨てようとした。
そんな絶体絶命のさなか、団長のダンから飛び出した言葉に団員たちは耳を疑った。
「ア、アンタ、何、言ってんのよ」
赤髪の魔術師、イスカの声が震える。普段なら勝気な彼女も、余りに突然のことに困惑している。
「そうだよ、だんちょ、そういう冗談笑えないよ」
ボーイッシュな剣士、リザも動揺を隠せない。平素はひょうひょうとした彼女も、余裕の仮面を貼り付けながら今は口元を引きつらせている。
「……」
回復役のライアに至っては、声を出すこともままならない。日頃のほわほわした雰囲気はかき消え、ただ目を大きく見開いて蒼ざめていた。
「どういうことだよ!説明しろ!」
男勝りな剣士、スカーレットも声を張り上げる。しかし、彼女の手はその言葉の強さに反して小さく震えている。
「はあ……」
ダンがため息をつくと、ざわめいていた傭兵団の全員が息をのんだ。
「あのさ、オレがなんのために、お前たち使えない孤児どもや貧乏なガキどもを集めてたかわかるか?」
ダンが醜悪な笑みを浮かべる。
「すべては、オレが最後、どうにもならなくなったらおとりに使うためだよ」
世界から音が消えたように静まり返った。




