俺の褌が悪徳領主を殺したら妖怪扱いされたんだが
勘違いする方はいないと思いますがフィクションです。(あとジャンルはコメディです)
褌はあれだなと思う方は回れ右でお願いします。
褌を多用しています。
褌、注意です!(・∀・)(しつこい笑)
薩摩国の某所──。
「雅右衛門殿が殺されたぞ!」
ちょんまげの三十そこらの男が、人だかりに向けてやたらと大声で話していた。
それは昨日の出来事だった。
あれは男が夜明けに道を歩いている時のことだった。
屋敷の白い塀の近くで顔に木綿布が巻き付いて倒れている男がいた。
男は慌てて近寄り、布を引き剥がすと「ひいっ!」と短い声を上げて、尻餅をついた。
震える体で倒れている男に近づくと、木綿布をそっと取ってみた。
すると、“(実質領主の)雅右衛門”だったのだ。
「税金ばかりとって皆金無しで苦労しているのに、自分だけ贅沢三昧しているなんて、罰があたったんだ!」
雅右衛門は私腹を肥やし、税金を取りまくっていた。領民の不満を買う典型的な悪徳領主だったので、男もびっくり。
そこから瞬く間にこの話は広がった。いや、厳密に言うとこの広場にほとんどの領民が集まっている。
それを広場後方で耳にした平吉こと俺は、大汗を掻いていた。
冷たい汗のはずなのに、体が熱い。
心の中では(ナンダアァァアア、イヤァアアァァアアア!!)と絶叫していたのは、当然内緒。
はてさて、おかしな足取りで広場から川の方へと歩いていく。
あれが俺の褌なんて誰にも言えない⋯⋯。
*
最近、嫁が酷い風邪だと言って寝込んでいるので、「家のことは俺に全部任せろぉ!」と見栄を張ってしまった。
そして芯の残ったご飯に、丸い掃除、それから洗濯──。
なかでも厄介だったのは、俺の褌だ。
洗っても洗っても無くしてしまうので、引出しから新しい布を出した。
これがやたらと長かった。
昨日、丁寧に着け始めたまでは良かった。
長い。すぐに一周回る。普段なら数回で終わるはずなのに、これが数十回続く──。
そのうち鎧のように分厚くなった褌は一体何を守っているのだろうか⋯⋯。
そしてその日の夜に外すと川に洗濯板を持ってやってきた。
水の跳ねる音の中、途方に暮れるほど長い褌を洗う。
俺は腕も足もクタクタになり、川の近くの木に引っ掛けて帰った。
*
家に帰ると早速、嫁に雅右衛門の話をした。苦しそうに咳き込みながら体を起こす嫁。
死因は“布による窒息死”。
うん、端的でいいな。
トヨはその知らせを聞くと、「さようでございますか⋯⋯」と口少なげに零した。
*
次の日──。
「雅右衛門殿の側近の高兵衛殿も布に巻かれて死んだぞー!」
広場では驚嘆の声が上がる。
俺も心臓が止まりそうになった。
(またか⋯⋯俺の褌ー!!)
*
また次の日──。
「今度は丘蔵殿だー!」
俺は顔に巻かれた馴染みのある布を、寂しそうに見つめた。
(これはまずいぞ⋯⋯)
重い足取りで帰ってきた俺はトヨに先ほど見たことを伝えた。
俺は両手を広げて、一反を表現した。
それを聞いた嫁は何かを思い出したのか、短い声を上げて俺を見てきた。
「そうだ、平吉さま、そろそろ褌を新調しようと思って引出しに一反の木綿布を用意しました。急ぎでしたら四つか五つしたためられるので、お作りしましょうか?」
「えぇっ!? 褌が四つか五つも出来ちゃうの!? あっ、あぁ⋯⋯いや⋯⋯トヨが元気になったらで大丈夫だ⋯⋯」
一反をそのまま使った挙句に雅右衛門とその他数名を窒息死させたとは口が裂けても言えない。
あの悪徳領主だったと言え、
「判決、死罪。
方法は使用済みの褌による窒息死」
だなんて、裁判官のほうが悪者に聞こえる。
使用済みという響きも最悪だ。
使ったけど!
ちゃんと川で綺麗に洗ったしな⋯⋯でも自分だったら絶対に嫌だな。
どんな悪どい事をしてても、使った褌で殺されるなんて可哀想すぎる!
実際そうなんだが、それでも死者の尊厳くらいは守りたい。だって、褌で殺されるなんて、さすがにやりきれないだろう!
*
またその次の日の次の日──。
「また出たぞー!!」
そこまで来ると、領民も異変に気がつく。
そこへ誰かの一言で事態は一変した。
「オラたちに代わって誰がやってくれたんでねぇか?」
突然の義賊のような存在を匂わせる一言。
(それは断じてない。俺は断言出来る。言えないけど!)
毎日毎日、洗う度になくなる褌。
俺の方こそどうなっているのか聞きたい。
もう褌がなくて今日なんて何もつけていないんだ。
「そうかも知れないなぁ」と領民たち。
「じゃぁその布を調べるかぁ。何か分かるかもしれねぇ」
(やめろ⋯⋯分からなくていいんだよ。俺の褌なんだよ!)
さっきまで騒いでいた男が、布に手を伸ばした。
「やめろ! これは⋯⋯呪いだ!」
俺は盛大な嘘をついた。多分あの世に行ったら雅右衛門や高兵衛に殺される。
その頃にはもう死んでいるけど。
「どういうことなんだ?」と領民たち。
「あれはまだ夜明けも遠い真っ暗闇だった⋯⋯」
俺は闇の中、空中を彷徨う木綿布をここ数日見たと言った。
空中は見てないけど、木綿布なら見た。
というか俺のだ。
「っつーことは、その木綿布がひとりでに泳いでいって雅右衛門殿や高兵衛殿を殺したっちゅうことか」
「そこまで見ていないが、木綿布は一反もあった。見間違えるはずはない」
(俺も心から嘘だと思いたい)
領民たちは俺の話を聞いて、納得した。
不思議なことに皆頷いてくれた。
「一反もめん、ねぇ」
「ありゃ、妖怪じゃねえか?」
そんな言葉は、もう俺の耳には入らなかった。
*
俺は深い呼吸をすると、トヨの待つ家へと向かった。
戸を開けると、トヨは台所に立っていた。
「トヨ! もう調子はいいのか?」
「お陰様でだいぶ良くなりました。
雅右衛門さまに代わって来た方はとても良い方だとお聞きします。本当に良かったです、ふふ。
そうだ、先ほど、平吉さまの褌を作るのに一反の木綿布を水通ししました。明日には褌が出来上がりますよ」
「えっ!?」
笑顔を向けて話すトヨを尻目に俺は川へと走っていった。
すると木に引っかかっていた布は旋風で巻き上がる。
昼間だというのに、俺の褌ならぬ一反もめんが空高く現れた。
足の付け根がスカスカで気持ち悪いのも気に留めず、全走力で追いかけていった。
新たな伝説が誕生しないことを切に願って──。
(おわり)
【注意書き】
一反もめんとは、大男が五人並んでもまだ足りないほどの長さ(一反)の木綿布の妖怪である。
通行人の首や頭に巻き付いて窒息させることがある。さらに空へ連れ去ったりする恐ろしい妖怪として知られる。
お読みいただき本当にありがとうございまし
た。
こんな一反もめんの発祥だったら嫌だ(・∀・)
わぁあ、こんなものを書いてしまいすみませんm(__)m
褌は流せませんが、笑って流してやってください。




