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必殺技



「よく見てみると、この食器可愛い…」

「ふふっ、そうよねえ。これ、『トゥリアテセラ』で買ったのよ?」

「えっ!そうなの!?」

 食事を終えてぼく達は食器の片付けを手伝っている。

 ぼくと父が洗う係、リアナと母が洗い終わった食器を拭く係だ。



 洗い終わった食器を受け取ったリアナと母が『トゥリアテセラ』__リアナの両親が経営している店の話をしている。

 ぼくは残った数枚の皿を洗いながら、少しだけ聞き耳を立てた。


 リアナの両親__父ベリスと母アリシアが経営するトゥリアテセラは、食品や食器類、武器や家電の取り寄せなど何でも扱っている雑貨店だ。

 家族ぐるみの付き合いという事もあり、うちにある殆どの物はトゥリアテセラで買った物が揃えられている。



「リアナ、あんなに早く行きたいって言ってたのに…」

 一枚食器を拭いては「可愛いっ」と言うリアナを見て、僕は思わず言葉を漏らした。


 __折角急いで支度したのに、これじゃあただのパンツの見られ損じゃないか…

 

 僕が先の言葉を心に留めていると、隣で洗い物が終わった父が僕に声をかけた。


「今は目の前のもの全部新鮮なんだよ。カイもリアナちゃんもまだそんな年頃だろ?」

「そうかなあ…ぼくはそんなだけどなあ」

 その言葉に父は、ははっ、と笑い、


「カイもいつかそう思うようになるさ__何たって、僕の息子だからね」

 そう言いながら、濡れた手をタオルで拭いた。


「そうかなあ…」

 僕はまだその言葉の意味は分からない。

 いつかリアナのようにそう思う時が来るのだろうか。


 そんな事を思いながら、ぼくも濡れた手をタオルでゴシゴシと拭いた。




 ぼく達は洗い物を終えて、準備を整え玄関に向かう。


「二人とも、忘れ物はない?」


「大丈夫だよ、お父さん」

「私も大丈夫っ!」

 ぼくの持ち物は非常に少ない。

 探索者以外が『街の外』へ行く為に必須の簡易呼吸機と採取用の小さいナイフ、それと水分補給用の水筒だけ。


 対するリアナは、お気に入りのキャラクターのリュックに何かをパンパンに詰め込んでいる。

 詰められた何かによって顔が伸びきっており、キャラクターが悲しい表情をしているようにも見える。



「それ、何が入ってるの…?」

「え、お菓子だよ?」


「これ全部!?」

 子ども用のリュックとはいえ、容量限界オーバーまで詰めたお菓子は先程の朝食の二倍ほどの量があると思う。


 僕がその量とリアナの食欲に引いた顔をしているのが伝わったらしく、


「…カイの分も入ってる__一緒に食べると思って」

 担いだリュックの肩紐をギュッと握って、リアナがポツリと呟いた。

 少し俯いてはいるが、ムスッとした表情を浮かべているのが分かる。



「あ、えっと__」

「偉いわぁ、リアナちゃん。さすが弟がいると誰かさんと違って、気が回るわねえ」

 そんなリアナに何を言うか迷っていると、僕の言葉を割った母がリアナの隣に屈んでそっと頭を撫でた。

 その後リアナが俯いたままなのを確認し、母は僕の方を向いて、


『謝りなさい』

口の形と少し微笑んだような表情で、そうぼくに伝えてきた。

 


「リアナ、ごめん…」

 確かにぼくの事を考えて持ってきてくれたのに、食い意地が張っていると思ったのは幼馴染だとしても失礼だった。

 ぼくはそう思いながら、俯いて母に頭を撫でられているリアナの前に立ち一言謝った。


 ぼくの謝罪を聞いたリアナが、そっと顔を上げる。

 その表情はまだムッとしており、僕の方をジトッとした目で見てきた。


「…何が?」



 これは最近リアナが覚えたやり方だ。

 ぼくがとりあえず「ごめん」というのに腹がたったリアナが、『ぼくにも』使うようになった必殺技。


「…食い意地が張ってるなって思った、から…ごめん。

__あと…ぼくの分も持ってきてくれて、ありがとう」

 僕がそう言い切ると、『わざと』ムッとさせていた表情をフワッと笑顔にし、


「よろしいっ」

と言ってぼくの頭を撫でた。




 リアナには五歳になるエイベルという弟がいる。

 弟が出来る以前から既に彼女はぼくに対してあれこれ言ってきていたが、弟が出来て更に輪をかけてぼくを弟扱いするようになった。


 今の技は五歳になり悪さが多くなった弟にブチ切れて編み出したものだ。

 ぼくもその現場に居合わせた。


「エイベル。お姉ちゃんに言うことは?」

「…別に」


「何かあるでしょ、言いなさい?」

「…」


「『言うこと』は何?聞こえないの!?」

「…ごめん」


 明後日の方向を向いてそれだけ言うエイベルを見て、その必殺技が生まれた。


「__こっち見なさい!!エイベル!!」

「…」


「『何が』ごめんなの?言いなさい」

「…」


「お姉ちゃんに『何をして』ごめんなの?

__ハッキリ言いなさい、エイベル!!」



「…お姉ちゃんの服、汚して…ごめんなさい」

 結局エイベルは半ベソをかきながら、ポツポツとリアナに謝った。

 リアナの特にお気に入りだった洋服を、エイベルが触って泥まみれにしたのが原因だった。


「__それで?家に帰ってどうするの?」

「お姉ちゃんの服…僕がちゃんと洗う」

 そこまで聞いたリアナは、さっきぼくにそうしたようにフワッと笑顔になり、


「よろしいっ」

と言ってエイベルの頭を撫でていた。



 

「ちゃんと自分から謝れて偉いわね、カイ」

 仲直りを確認した母が、そっとぼくの頭を撫でる。


 __いや…これ、エイベルよりぼくの方が子どもじゃないか?


 必殺技が生まれた瞬間を思い出しそんな事を思っていると、母はリアナのリュックをそっと撫でた。


「リアナちゃんも、カイの為にありがとね__でもちょっと『この子』が可哀想だから、カイにも持たせてあげて」

 その母は家の奥の方に消え、ぼくのリュックを持ってすぐに戻ってきた。


「カイに食べさせたい物、選んでちょうだい?__ね?お姉ちゃん」

 母はニコッと微笑み、ぼくのリュックをリアナに差し出す。



 その言葉でワッと喜んだリアナは、


「これ!カイが好きなお菓子!」

「これは私のっ!」

「これはね、えっとね__」

と丁寧に一つ一つ説明をしながら、お菓子をぼくのリュックに選り分け始めた。


 全ての選別が終わる頃、先程より少しだけ顔を楽にさせたキャラクターとそこまで物が入っていないぼくのリュックが目の前に置かれる。


「終わったよっ!」

 彼女は満面の笑みをこちらに向けて自分のリュックをギュッと抱いた。


「__いや、全然ぼくのがないじゃん!」

「だって私が食べたい物ばっかなんだもんっ」


 ニシシ、と笑うリアナ。

 先程ぼくに怒った事を忘れたかのようにサッパリとした表情を僕に向けている。


 __間違ってないならさっきの謝罪、返してほしいんだけど…


 そんな事は口が裂けても言えない。

 今はただリアナの機嫌の良くなった事に感謝をしよう。



「…ありがとう」

「どういたしましてっ!」



 __お礼だと、とりあえずで言っても上機嫌でいてくれるのはありがたい所だな…



 さほど重さの感じないリュックを抱えながら、そんなことを思った。


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