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観測準備



「__それで、明日一日使って観測をし直すっていうの?」


 僕の部屋で資料を呼んでいたアルヴェラは、少し不機嫌そうにそう切り出した。


「今回は初めての試みだから、出来るだけこちら側も準備しておいた方がいいと思ってね

__そっちの邪魔はしないから、いいでしょ?」


 

「…邪魔をしないからいいって、そういう話じゃないの」


 ため息が一つ、彼女の口から漏れる。


「明日、観測する場所は?」

「揺籃と耀遺の予定だけど…あ、必要があれば遊天も__」


「__詳細が知りたくなって、みんなを呼ばない自信はある?」


 僕が観測器具の方を見ていた数瞬の間にだろうか。

 いつの間にかアルヴェラは書斎机の椅子に座る僕の隣に来ていた。


「ちゃんと聞きなさい、ネリス。

__アストリオはもう、あなたの遊び場じゃないの。それは分かってる?」


「もちろん、分かっているよ」

「いいえ、あなたは何も分かっていないわ」


 

「…そもそも衡理に異邦の者を呼ぶことも、私は反対なの」


 分かっている。

 結局彼女は今回の試みについて、最後まで首を縦に降ることはなかった。


 彼女はここのリーダーだ。

 みんなを危険に晒すようなことは容認出来ないというのは最もな理由だと、僕もそう思う。



「少し外縁を案内して、そのまま帰ってもらうことは出来ないの?」

「多分、可能だと思うよ」


 今回の事は僕達が決めたことではない。

 世界が意思を持って僕達に『此れをせよ』と告げたに過ぎず、その決定に僕達の意思は介入していない。

 

「__次に強硬派でも送られて、僕達ごと中身をバラされてもいいのなら、ね?」

「__っ!」


 アルヴェラがギリッと歯を鳴らす音が聞こえる。

 

 死と共に人生を歩まない僕達には、死は自身とは無縁の存在だ。

 僕のような様々なものに興味を示す者にとっては、むしろ興味の対象にすらなり得るだろう。


「そう__それは面白くないことだよね。僕もそう思っているよ」

「…そう?あなたは別に自分が死んでも気にしないと思っていたけど」


「僕は別に構わないよ?死後の世界というものは未だ観測出来ていないから、興味はもちろんある__でもね、アルヴェラ」

 名前を呼ばれた彼女がこちらを向いたのを見た僕は、そっと顔を近づけてキスをした。


「バラバラにされる君の観測だけは、したくないと思っているんだ」


 これは紛れもない本心だ。

 この世にある全ての観測を行えたとしても、アルヴェラが苦しんでいる姿の観測だけはしたくない。

 __なぜか、そう思う。



「…で、それとキスに何の関係があるの?」

「キスは親愛の証でしょ?どの世界でもそう観測したけど」


「頬へのキスはね__あなたのそれは、愛情の表現よ」


「ああ、そうだったかな…じゃあまあ、そう受け取ってくれて構わないよ。

__とにかく君を、他のみんなを僕は失いたくない。だからこうして異邦を受け入れる準備をしているというわけさ」


 自室の大きなモニターの接続口に観測用の端末を接続すると、いくつかの映像が流れ始める。


 焦熱を操る女性型の魔物が、探索者と呼ばれる者達を炭屑に変えている映像。

 向かい合った二人が縦横十数マスほどの盤面を動かし合い、互いの肉体を削りあっている映像。

 恐ろしい速度で文明の形成とその滅びを繰り返している映像。


 恐らく以前観ていた定点映像の続きだろう。

 観測をしていない間も世界は動き続けているという、確かな証拠だ。



「あ、愛情を贈る代わりと言ってはなんだけど__『彼』だけはここに呼んでもいいかな?今回の主役と言っても過言ではないし、流石に彼には同席してもらいたいんだ」


「ええ__」

 モニターに映る映像の調整をしながら言葉を出す僕の口を、アルヴェラの唇が塞いだ。


「__却下よ。明日の観測は、一人で頑張ってちょうだい」

 そう告げると、彼女は部屋の出口へ向かっていった。


「…つれないな、愛情を交わした間じゃないか」

「__交わした?いいえ、今貴方が押し付けてきた愛情を返したのよ。あなたと同じやり方で、ね」


 

 パタン、と部屋が閉じられ、部屋にはモニターの方から聞こえる音のみとなる。


「__敵わないな、やっぱり」

 彼女はこうと決めたら頑として意見を曲げない所がある。

 以前情に訴えると呼ばれている手を使って偶々上手くいったが、今度は駄目だった。


「あまり好みのやり方ではなかったのかな」

 情に訴える方法はまだいくつか観測したことがある。

 今度は別の方法を試してみよう。



「__よし、大体こんなところかな」

 そう考えているうちにモニターの調整が終わった。

 この辺りを見せて、後はどんな反応をするか次第だ。



 概ね準備を終えた僕は、部屋を出てカプセル室に向かい自分のカプセルへと入った。

 睡眠を必要としない僕達でも、連続の観測を行う前はこうしてカプセルで調整することが望ましい。


「…まあ、出来るなら楽しんでもらえた方が心象はいいよね」


 誰に言ったわけでもない。

 ただカプセルの中で一人そう呟いて、僕は意識を飛ばした。

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