君にも秘密
「ねぇ、知ってる?」
学校の一室、机の縁に手を突っ張り座っている椅子を傾けながら暇そうに君は言った。
さあ、何と返事するかが問題だ。最初は問題ないんだが、続きを上手く答えないと、君の機嫌が悪くなる。
私は読んでいた本をそっと閉じ、横の椅子に置いていた鞄に入れながら聞く。この位置からは君からは見えないが、私の頭脳はフル回転しながら余裕のある症状を作っていく。
「なにを?」
斜め前に座る君に振り返りながら、少し笑みを浮かべてそう返す。
さあ、どうでる?
「リオのこと好きってこと」
「は?」
用意していた返事など全て吹っ飛び、そのまま声が出た。リオとは私のことだ。
君が私のことを好き。
顔を赤ながら、いつの間にかきちんと座り直して透き通るような目でわたしをじっと見ている。ふわふわした髪を2つに結び、少し茶色がかった私より小さな子。
私が身長が高いこともあって、君を可愛い子と思うが周りからも可愛いと評判だ。
その君が私を好きなことを知っているかって?
「え?知っているよ、当たり前でしょ」
そう、当たり前なのだ
私は君の恋人だから。
「じゃあ、何でずっと本読んでるの?2人きりなんだよ。手を繋ごうよ、お話しようよ、ぎゅってしようよ。リオともっと触れ合いたいのに、本読みながらニヤニヤしてさ」
椅子がガタンと音をたて倒れても気にせず、立ち上がり早口でまくしたてる。顔を真っ赤にし両手を握りしめ、目尻にはちいさな涙が浮かんでいた。
可愛い顔と優しい性格な君がここまで怒ることはないのだろう。初めて見せてくれる表情に、怒られ戸惑いながらも私はふふっと嬉しくなってしまった。
だが君の機嫌を悪くしてしまったのは問題だ。
「すまない。君といると気が休まるから、ついいつもは読めない本を取り出してしまった」
「そりゃあ、リオは背も高いし勉強もスポーツも万能で、部活の助っ人に呼ばれるくらいだし・・・人気があって大変なことも知っているけど---」
言葉は続かなかった。
少し落ち着いてきたのか、握っていた手を緩めながら声のトーンが落ちていく。そっぽを向くように顔は横を向いていたが、目の端が私を捉えて離さない。
私の言葉を待っているのだろう
だが、私は何も言わなかった。
君の手を引っ張り、無理やり私の膝の上に座らせた。
小さな君は私の膝の上でも、私の顎に君の頭がぶつかることはない。君の両手に私の手を重ね、君のお腹にのせて後ろからぎゅっと抱きしめる。
後ろからだと表情は見えないが、君の耳が真っ赤になって、抵抗もせず受け入れてる姿に込み上げてしまう。
「寂しい思いをさせてすまない。だが1つ言わせて欲しい」
後ろからささやく言葉に、こくんと頷く君を見る。
・・・これもアリだなと思いながらも声には出さない。
「君はどれだけ可愛いんだ。私がどんなに自制してると思ってる?私だってぎゅっとしたい、キスしたい、抱きしめたい、このまま押し倒したいんだ」
ギリギリな言葉を選んだつもりだが当たっているだろうか?本当に君とやりたいことはいっぱいある、それ以上に君を大切にしたい。
体をよじり横向きに座りながら間近で君は言った。
「何で我慢するの?」
その瞬間、私は君の頭抱え込むように抱きしめる。君の温もりを感じ、君の顔を両手で挟み目を閉じて待っている君に、唇を合わせた。
初めてだった。
付き合い始めても忙しく、2人きりの時間をなかなか作れなかった。それでもどうにか色々話して関係を深めていき今日初めてキスをした。
初めてのキスは美しい記憶にしたかったのに、衝動に駆られた仲直りのキスだった。
その後どうなったかは記さないでおこう。
鞄に入れていた日記帳。今までは数行しか書かず、見返すことなどなかった。
でも君と出会い、書くことが増えていき私の気持ちを理解した。恥ずかしいことも多いが、微笑ましく思うのだ。
日記帳を鞄に入れ、横で寝ている君にそっとキスをする。
「知っているかい?私が読んでいたのは君との出会いだよ」
と、小声で言いつつ、この本だけは君にも秘密だ。
そう思うのだ。




