泥濘の中から
隣に住む男は、日がな一日中地面の泥をかき回し続けている。静かな夜には、その音が我が家まで届く。不愉快な音だ。指にまとわりつく泥の柔らかさと、周囲に飛び散る様子が目に浮かぶ。
ある日私は、いつまでも終わらない泥遊びの音にとうとう耐えかねて窓を荒々しく開いた。
その男は窓のすぐ下にいた。昨夜雨が降ったため柔らかくぬかるんでいた私のささやかな畑を、めちゃくちゃにしている!
先週野菜の種をまいたばかりだったのに。私は怒りに任せて怒鳴った。
__おい! 何をやっているんだ!
男は一瞬手を止め、それからまた地面を掘る作業に戻った。彼の着ているスーツの上下は泥で汚れきっていた。
__やめろ。そこは、私の庭だぞ。
私は庭に出て男の腕を掴んだ。すると男はぽつりと呟いた。
__怪物が……。
__何だって?
私は彼の腕を放した。だらんと両腕を投げ出したまま、男は続けた。
__私は、小さな頃から泥が怖かった。中に恐ろしい怪物がいると信じていたからだ。泥遊びに夢中だった私と姉に躾をしようとして母が語ってきかせたのだ。
泥の中には、人を食う怪物がいるのだと。そいつは、特にゆるくなった泥濘の中でいつの間にか生まれ、一つしかない目で、泥遊びをしている子供をじっと見つめている。そして、子供が近くに来たら泥から飛び出して襲いかかり、一気に飲み込んでしまう……。
その話を聞いて以来、私は泥で遊ばなくなった。庭にいると泥の中から怪物に監視されているような気がして、怖かった。だが姉は違った。怪物を見つけるのだと張り切って泥を掘り返し続けた。
ある日、姉の姿が見えなくなった。幼かった私には、姉がどうしていなくなったのか、何も分からなかった。大人たちが騒いでいたから、家の片隅で孤独に遊んでいた。
姉が消えてから初めて迎えた夏に、私は久しぶりに庭へ出た。かつて姉と遊んだ泥場は乾いていた。
もうそこに怪物はいないはずだと思った。気が大きくなった私は、乾いた土をめくってみた。
泥にまみれた何かが埋まっているのを見つけた。掘り出してみると__それは、小さな指だった。白くて干からびた、根元からちぎり取られたような指だった。爪の中に泥がこびりついていた。
私はそこを躍起になって掘り返した。指の他にもう一つ見つかったものがあった。きらきら光る青い石の指輪だ。姉のお気に入りで、いつもはめていたものだった。
そこまで語ると、男は深い溜息をついた。
__それ以来、どこでも泥を見ると掘り返さずにはいられないのです。




