#07 〝ディー フェッセル デア リーベ〟
その日の夕食の席―――大方の者が食事を終えた中、最後まで残しておいた雪銀羊の肉団子に茸のクリームソースを絡めながらレインが満足げな表情を浮かべていると、シルファが小さな包みを取り出してパゴタの前に置いた。
「これは……?」
「開けてごらん。あなたのものよ」
シルファの声で慌ててレインも肉団子を吞み込み姿勢を正した。
白樺の樹皮でつくられた包みを、パゴタが恐る恐る開封すると、そこにはレインがしているのと似た、魔石のブレスレットが入っていた。
翡翠と薄紫がマーブル模様を描くそのブレスレットを見るとなぜか心が穏やかなになる。
パゴタはどうしていいのか分からずシルファとフリークを交互に見やった。
「パパは魔石の採掘をしてる守り人なの。それからママは魔石の職人なんだよ」
レインが誇らしげに笑うと、両親はパゴタに向かって優しく微笑んだ。
「それはね、15歳までの間魔力を封じておくためのお守りなの」
「お守りなのに魔力を封じるの……?」
「ああ。魔力は15の歳になるまではとても不安定で、感情に左右されがちだ。それに、魔法を使うことで育たたなく心だってある。だから魔力を封じる。けれどその間はこのブレスレットが子どもを守ってくれる。そういうものなんだ。それにパゴタも気に入ると思うよ?」
まじまじとブレスレットを見つめるパゴタに、レインは琥珀と群青の混じり合った自分のブレスレットを見せながら言った。
「わたしとお揃い! パゴタもつけてみて?」
「わかった……」
ブレスレットに手を通した瞬間、自分の中で流れる魔力がシン……と凪いでいくのを感じて、パゴタは目を見開いた。
それなのに、拘束魔法のような窮屈さが微塵もない。
「へへへ。凄いでしょ? パゴタの魔力と融け合うように魔石の種類を調整してるんだよ?」
「うん。とっても凄い……いつの間に僕の魔力を解析したの?」
「しないよ。あえて言うなら母親の勘かな?」
そう言ってシルファは胸を叩いた。
「シルファ、魔石を選んだのは私だろう?」
そう言って割り込むフリークにシルファはおどけて見せた。
そんな二人とブレスレット見比べてパゴタは思う。
これに込められた魔法の名前を想う。
「僕、レインが魔法を禁止されてると聞いたとき、よくわからなかったんです……どうしてそんなことをするのか。でも」
気が付くと一筋の涙がパゴタの頬を伝っていた。
「なんとなくわかった気がします……このブレスレットは、暖かい……」
「そのブレスレットの名は〝ディー フェッセル デア リーベ〟という。直訳すれば愛の束縛という意味だが……制限と言う名の愛。私はそう呼んでいる。制限されるとは、時として守られているということだ。この厳しい環境では野放しが愛とは限らない」
「あなたにはどんな時でも私たちがついてるわ。それを覚えていて?」
二人の言葉にパゴタは深く頷いた。




