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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
52/52

#52 奈落の唄

 

 その頃バーべリアの地下深くでは不気味な唄が響いていた。

 

 再生と崩壊を繰り返す何者でもない男が口ずさむ不気味な唄。

 

 もはや思考は働いておらず、なぜ唄を口ずさめるのかは定かではない。

 

 それは思うに、花冠を戴く女神の意思がパゴタとレインを導くのと似た、この世の理を超越する大いなる意思の顕れなのだろう。

 

 あるいは彼の歪んだ救済への情熱が地の底深くに眠るとされる、古の王に共鳴したのかもしれない。

 

 坑道の縦穴に愁いを帯びた悲鳴のような、死地を前に叫ぶ万軍の歓声のような不気味な風が吹き抜ける。

 

 ひゅぉお……ひゅぉお……と吹き抜ける。

 

 その詩は忘却に封じられた禁忌。

 

 神々が鎖をかけた呪いの唄。

 

 何人(なんぴと)も知るはずのないその詩を、何者でもない男が口ずさむ。

 

 

 木漏れ日差す豊かな森よ 

 その足元に坐す腐食の台地よ

 実りは常に腐敗の上に

 屍どもの上に立つ

 

 農夫の振るう鍬の下には

 割れた(こうべ)が花開く

 紅く滴るざくろの果実は

 神々が説く摂理に同じ

 

 踏み躙れ踏み躙れ

 葡萄の房を酒船に投げ込め

 踏み躙れ踏み躙れ

 砕いて絞って樽に詰めろ

 

 荒廃の王に相応しく

 その味は甘美で芳醇で

 人の世を酒船に

 子らの頭を房に変えれば

 腐敗と荒廃の摂理は硬く揺るがない

 

 全ては荒廃王の為に

 

 

 失われたはずの禁書『〝デア・ヘア・デア・クランクハイト叙事詩〟』より

 

 

 第三章【亡者と銀翼の竪琴】へ続く

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