表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
47/52

#47 傷者語り③

 

 ああ。また僕は……

 

 風穴の空いたアノニーを見ながらパゴタは絶望した。

 

 殺すことでしか愛する人を守れない自分は、まさしく呪われた魔族だ。

 

 彼にも願いがあり、想う相手がいたのだろう。

 

 それは間違ったやり方だったのかもしれない。

 

 それでも、その想いの全てを否定することは出来ない。

 

「だってそれを否定すれば、僕がみんなを守るために行使したこの暴力がただの殺人になってしまうから……だからせめて、あなたの想いは間違いじゃないと……僕は信じてる……」

 

 そう言って少年が目を瞑ろうとした時、乾いた嗤い声がドームに響き、少年は目を見開いて、驚愕した。

 

「パゴタよ。そんなに自分を責める必要はないよ? だって私は死んでなどいないのだから」

 

「馬鹿な……あり得ない……心臓も他の臓器だって……」

 

 ぽっかりと開いた穴にはポタポタと血の垂れ幕が下がっている。

 

 アノニーはその穴の淵に指を這わせながら「ああー」と間延びした声を出してからニィと笑った。

 

「この身体はただの器だよ。代替可能なただの容れ物さ? この研究をサリエルは忌み嫌った。永遠を目指す私を彼女は悍ましいと罵った。無理もない。強要に乏しいバーべリアの田舎娘だったから……昔話をしようか? 私は遥か西に広がる影の国に産まれた。影を絶つ大峡谷に囲まれた、ほとんど陽の射さない忌まわしい国だ。我々〝影鬼(グールド)〟の一族は何世代にも渡りそこに封じられてきた。かの〝慈しみの果ての君〟が世界の均衡を壊したあの日まで……」

 

 パゴタは焼け焦げた身体で何とか立ち上がろうとしたが上手く立つことが出来なかった。

 

 そんなパゴタを見てアノニーはクククと肩を震わせる。

 

「無理をするな。死期を早めるぞ? さてどこまで話しただろう? そうだ。〝慈しみの果ての君〟彼の話だった。私達は大峡谷を出て〝慈しみの果ての君〟に付き従おうとした。しかし彼はそれを許さなかった。世にも不憫な貴様たちはこの世の最後に殺そう。彼はそう言って私達を突き放した。こうして一族は思い思いの方角に散っていったのだ。ある者は海へ。ある者は砂漠へ。私も彼らと同じく放浪の旅に出た。そして様々な書物を知識を集めて回った。全ては最後の時まで生き残る為に。〝慈しみの果ての君〟に正しく殺していただくために……! 私は忘れ去られた文献を頼りにバーべリアに辿り着いた。バーべリアの地下深くに湧き出る雫を求めてやって来た。しかし問題があったのだ……この地を守る一族がいた。彼らは余所者の私を快く歓迎したが、坑道にだけは入らせなかった。だから私はまず、一族と血の繋がりを持つことにした。家族になることを選んだのだ……! そうして私はここに住みついた。サリエルと、その間に儲けた子どもたちと共に。私は彼女らを心から愛し、全てを打ち明けた。ところが彼女たちは顔を引き攣らせて私を責めるように言った。あまつさえ仲間の所に向かい密告しようとしたのだ。だから私は彼女たち殺したのだ。誤算だったのは彼女が古龍の霊廟と私にかけた呪いだ。私は日の光に嫌われ、霊廟も私を拒んだ。雫を前にして私は指を咥える羽目になった。ここで研究する以外に何も出来なくなったのだ……」

 

 パゴタは棒きれのような手足を魔力で無理やり強化して立ち上がった。

 

 自分が酷い思い違いしていたことを痛感させるように全身が悲鳴をあげる。

 

 それでもパゴタは目の前の男を睨みつけ、立ち上がり、魔力を振り、剣を握った。

 

「僕が間違っていた……お前は、生かしておいてはいけない存在だ……そんなものを、家族とは呼ばない……そんなものは……愛じゃない……‼」

 

「愛さ。最後の日に私は彼女らを生き返らせて〝慈しみの果ての君〟の前に歩み出る。そうして最も名誉ある死を家族そろって賜るのだ……!」

 

「狂ってる……」

 

「正常だとも。狂っているのはこの世界だ……!」

 

 アノニーはそう言って魔力を膨らませた。

 

 蒼い炎の柱が三つ立ち昇り、アノニーの影も三つに増える。

 

「灯影魔法〝影の三柱(みはしら)〟」

 

 地面から影が立体の世界に這い出した。

 

 それらは自らの意思を以て、パゴタを討たんと睨み据える。

 

 パゴタはボロボロの両手を睨んで大きく息を吐いた。

 

 まだ生き残るつもりでいるのかパゴタ?

 

 未来の事を望む資格なんて僕にはないじゃないか……?

 

 多くの未来を奪って来たのだから……

 

「冥府に坐す昏色の冠を戴く王よ……我が四肢に御手を伸ばしたまえ」

 

 パゴタの四肢の内側から冥府の雷が迸った。

 

 四肢は消し炭になり、耐えがたい痛みがパゴタを襲い、生身の手足があった箇所に残されたのは冥府の雷で象られた手足。

 

 痛みで脳細胞が焼けそうになりながら、パゴタは迫りくる三体の影に剣を振るう。

 

 黒い稲妻が空間をも引き裂いて、影すら呑み込む闇を産んだ。

 

 破片すら残さず跡形もなく消えた影達を見て、アノニーは絶句する。

 

「肉体を捧げての部分召喚か⁉ 少年……貴様は何者なのだ⁉」

 

「そんなんじゃない……‼ ただの呪われた暴力だ……‼ そして僕は……ただ家族を守りたいだけの……孤独な魔族だ……‼」

 

「灯影魔……」

 

「……遅い……」

 

 詠唱するよりも先に、パゴタの一閃がアノニーの首を刎ねていた。

 

 闇を産む雷に呑まれて、アノニーの頭部がこの世界から消えてしまう。

 

 それを見届けると、雷鳴とともにパゴタの四肢もまた消えた。

 

 受け身も取れずに少年が地面に落下すると、男の身体がガクンと膝を折って動かなくなった。

 

 霞む視界にアノニーの骸が映る。

 

 今度こそこれが最後の景色なのだとパゴタは理解する。

 

 それなのに、ぽっかりと開いたアノニーの胸の穴からは光が差し込んでいた。

 

「パゴタ……‼」

 

 悲痛な声が響き渡る。

 

 穴の向こう側に、必死に駆けるレインの姿が見えて、パゴタの両目から涙が滝のように溢れ出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ