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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
46/52

#46 傷者語り②

 

 どくん……

 

 何かの鼓動がドーム内の空気を揺らす。

 

 それと同時にパゴタの身体が浮き上がり、弓のように反り返った。

 

「パゴタ⁉」

 

 レインが振り向くのと同時に、パゴタを影の奔流が襲う。

 

 レインは悲鳴を上げることも出来ず目を見開き息を呑んだ。

 

 レインが見たのは影に呑まれる直前、パゴタの身体を大地から遡る雷が貫いた瞬間だった。

 

 稲妻が影を散らすようにパゴタを襲った影が弾け飛ぶ。

 

 宙に浮かんだパゴタはゆっくりと反り返っていた状態を起こしアノニーを睨むと、割れんばかりの叫び声をあげた。

 

 それほど気迫――いや。鬼迫と言ってもいい、圧を帯びた咆哮がパゴタを中心にして炸裂する。

 

 それは幾千万の軍勢があげる怒号のようであり、無数の雷を束ねて地に投げつけた時そのもののようでもある。

 

「冥撃魔法 禁忌(ヴァルジータ)万雷賛歌イムノ・アトロナドール〟」

 

 両目と鼻から血を流し、自身の身を雷で焦がしながら、パゴタは両手を前に突き出した。

 

 地面から再び赤黒い稲妻が立ち上り、パゴタの身体を通じて手に収束する。

 

「今だ……! 行けぇえええええ!」

 

 パゴタの両の手から禍々しい冥撃雷が迸った。

 

 太く強大な雷の群れが、反発と融合を繰り返しながらアノニーに襲い掛かる。

 

「その若さでよもやこれほどとは……‼ 少しは慎みたまえ……‼ 灯影魔法〝火影穿ち〟」

 

 アノニーの影が青い火を纏った。

 

 その明かりが、影をより暗く深くする。

 

 襲い来るパゴタの雷を、蒼炎を纏った影が迎え撃つと、その衝撃で洞穴全体が激しく揺れる。

 

 大丈夫だ……

 

 これだけの力と力の衝突……

 

 奴の視野は今、狭窄しきっている……

 

 パゴタはさらなる雷を大地の底から呼び寄せ身に纏った。

 

 皮膚が裂けて血が滲み、雷がそれを蒸発させる。

 

 赤黒い蒸気と焦げの臭いが立ち込める。

 

 それをさらなる雷が掻き消していく。

 

 優しいレインに気付かせないために。

 

 アノニーの死角になった壁を一本の冥撃雷が穿った。

 

 それは壁をくり抜き、アノニーの張った防壁を迂回し、出口の方へとレインを導く。

 

 サンドラが風のようにそこをくぐり抜けて出口に吸い込まれるようにして消えた。

 

 その残像を、パゴタは慈しむように見つめ、口元をフッと緩ませる。

 

「さよなら。レイン……」

 

 パゴタはそっと目を閉じた。

 

 蒼炎と影が勢いを増してパゴタの雷を押し返し始める。

 

 パゴタは再び目を開き、歯を食いしばった。

 

「まだだ……! ここで僕が倒れたら、あいつはレインを追う……! この男はここで殺す……! 何人もの命を奪って来た……自分が生きるために奪い続けてきた……! そんな悍ましい自分を呪った……幸せになる資格なんてない僕を、レインは笑って受け止めてくれる……シルファさんは優しく叱ってくれる……ジークさんは守ってくれる……僕は僕の為ではなく、大好きな家族のためにこの呪われた力を行使する……! お前をどこにも行かせはしないぞぉおおおおお……‼」

 

 パゴタの肉を、臓器を、神経を、骨を……地の底から湧き上がる冥府の雷が焼いた。

 

 やがて無数に枝分かれしていた雷は一本に収束する。

 

 それは空気抵抗をものともせず、大気を、そしてその裏側に存在する亜空間をも引き裂いて、真っすぐにアノニーを貫いた。

 

「冥撃魔法禁忌(ヴァルジータ)雷戦(ライゼン)〟」

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