#43 再会
前を出来るだけ見ないように俯き加減で前進するパゴタの額が柔らかいものに振れた。
驚いて視線を上げたパゴタはそれがレインのお尻だったことに気付いて慌てて後退し早口に言う。
「ち、違うんだレイン! 僕はできるだけ、その、見ないようにしようと……」
「し! 静かに!」
そう言って振り向いたレインの額には冷や汗が伝っていた。
少年の心もそれに伴い急速に熱を失って凪いでいく。
そっとレインの脇から前方を確認したパゴタの目に飛び込んできたのは、ピンク色をした環形動物の胴体だった。
これまで一本道だった洞穴に突如現れた横穴。
それを横切るようにして、巨大なミミズの胴体が道を塞いでいる。
「ここじゃ戦えない……衝撃で落盤が起きたら僕たちはお終いだ……」
「でも引き返しても一本道だったから他に通路はないよ……どうしよう……?」
「様子を見て、横切るのを待とう……今はそれしか……」
その時だった。
レインのすぐ横の壁がピキ……と嫌な音を立てたのは。
パゴタはレインの服を掴んで咄嗟に後ろに引っ張った。
次の瞬間、魔石の壁を突き破り筒状の口にぐるりと鋭い牙を生やしたミミズの頭が現れ、先ほどまでレインがいた場所で空を噛んだ。
「なんだこいつは……⁉」
「ミリアポーダじゃない……多分〝ヴルム〟だよ……! 肉食で凶暴で……溶かす!」
まるでその通りと言わんばかりに、ぐぁぱあ……とヴルムの口が開き、酷い臭いがする粘液の糸状に吐き出した。
パゴタはレインと壁の間から右手を突き出し武器創生魔法で漆黒の盾を創造した。
じゅうじゅう……と音を立て、魔石と盾が溶けていく。
「こいつ……この溶解液で地面を溶かしながら穴を掘ってるんだ……」
「どうしよう……? 一旦霊廟まで戻って、そこで倒せば……」
「うん……! それが確実……」
そこまで言って振り返った時、パゴタの目に絶望が飛び込んできた。
ヴルムがもう一体……?
新たな横穴から先ほど見たのと同じ邪悪な顔が姿を現し、退路を塞いでいる。
「駄目だレイン……後ろにもヴルムがいる……」
「挟み撃ち……⁉ でも、ヴルムが群れで狩りをするなんて聞いたことない……」
ぐぁぱあ……
パゴタの視線の先で再びヴルムが予備動作に入った。
慌てて左手を突き出し、パゴタは盾を創造する。
「完全に道が断たれた……このままじゃ……」
「盾を創造し続けて諦めるのを待つのは? 魔力は泉の水で回復出来るよ……!」
「それしか手は無さそうだね……」
その時だった。二人の真横の壁がピキ……と音を立てる。
二人はそちらを見て青褪めた。
「まさか……」
「もう一匹……?」
パゴタは両手を伸ばしたまま身体を捩ってレインを庇おうとした。
無意味だと分かっていても、それしか手は残されていない。
壁が破られる……
そう覚悟したその時、穴の奥から声がした。
「少年! 盾を強化しろ……!」
「誰⁉」
レインが驚き警戒を滲ませる中、パゴタは魔力を強めて盾を強化していた。
知っている。
この声は……
次の瞬間、嘶きにも似た高音が響き、激しい衝撃がパゴタの右腕を襲った。
「これって……⁉ サンドラの⁉」
「う……ん……! 翼閃だ……!」
ヴルムの悲鳴が前方から、そして後方から聞こえ、真横の壁の中でも響いていた。
パゴタが衝撃を受けきると、辺りには焦げた肉の臭いが立ち込めていた。
「少年! こっちに出口がある! 早く来なさい! そのヴルムは〝三つ首〟他の首も今の一撃で傷を負ったはずだ! 今のうちに早く!」
「誰なの……? パゴタの知り合い?」
レインが尋ねるとパゴタは静かに頷いた。
「彼はアノニー。レインに飲ませた解毒剤をくれた人だよ」
「え⁉ じゃああの人はここに住んでるの⁉ 知らなかった……」
パゴタはそれ以上は何も言わずに盾を解いた。
翼閃で焼かれた魔石の洞穴はまだ仄かに熱を帯びている。
「粗熱がとれたらすぐに行こう。サンドラも無事みたいで良かった……」
二人は横穴の中で痙攣するヴルムに警戒しつつ熱が引くを待ち、やがて出口へと向かって進み始めた。




