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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
41/52

#41 壁画の詩

 

 

 泉の水をありったけの容器に詰めて、二人は出口を探し始めた。

 

 入り口は瓦礫で固く閉ざされていて通れる様子はない。

 

「パゴタの魔法で吹き飛ばしたらどうかな?」と宣うレインにパゴタは慌てて首を横に振る。

 

「駄目だよ⁉ もしもその衝撃でここまで崩れたりしたら、生き埋めになっちゃうよ⁉」

 

「ちぇ」と口を尖らせつつも、レインはそれに納得し辺りを見回し始める。

 

 するとレインの興味はいつしか壁の霊廟とは別に、所狭しと描かれた壁画へと移っていった。

 

「これ、竜人族に伝わる神話なんだ」

 

「そうなんだ……」

 

 適当な返事をしながら、パゴタはどこかに出口は無いかと必死で探している。

 

 そんなパゴタと裏腹に、レインは壁画に振れて、内容を指で追いながら澄み切った声で神話を歌い始めた。

 

 叢雲の空いずこ。天空の雫落ちにけり

 天の小石。非力な者よ。汝の願いはまたいずこ

 花の女神は慈悲深く、冥王もその風に微笑まん

 ひとひらの花弁、風に舞う

 やがて海原を越え征かん

  天の小石。非力な者よ。されど平和を望む君

 その宿願が呼んだだろうか

 悲鳴にもその宿願が、ひとひらを呼び寄せたのだろうか

 それは竜燐

 力の片鱗

 汝の柔肌を覆う鎧

 猛き哭を上げ空を穿たん

 逞しき尾で地を打たん

 天の小石。非力な者よ。汝の願いは爪拳に抱かれ眠る

 

 

 美しくも悲しい旋律にパゴタも手を止め立ち止まる。

 

 レインはそこまで歌ってから、ピタリと手を止めて壁画を見つめた。

 

「レイン……?」

 

 パゴタが不安げに歩み寄ると、レインは壁画を見つめたまま口を開いて言った。

 

「これ、わたし知らない。ここから先、知らない歌が描かれてる……」

 

 見上げるとそこには黒い何か――それは見るからに邪悪で、壁画であるにもかかわらず邪悪な力の残渣を帯びていた。

 

 その邪悪な何かの周りを竜たちが飛び交い、激しくソレを攻め立てている。そのように見える。

 

「なんて書いてあるの……?」

 

 パゴタがごくりと唾を呑んで問うと、レインは「ちょっと待ってね……」と呟いてからそれを読み上げ歌い始めた。

 

 嗚呼、恐ろしき日がやって来る

 天地が逆転し、雷は地から空へ昇る

 我らの願いは平和の憩い

 それを疎むのは誰か?

 ブルメン・ネーブルの雫を嫌い

 血と涙、沼地の毒と虚無の風を愛するのは誰か

 彼が来る

 小さき破滅の破壊者が産声をあげ

 それを聞きつけ彼がやって来る

 鍬を槍に打ち直せ

 鋤を剣に鍛え上げろ

 恐ろしいその日の為に

 我らは眠り、明けない夜を待つ

 

 

 静けさが夜露のように降ってきて、その場の全てを覆い尽くした。

 

 息をするのも憚られる静謐の中、二人は顔を見合わせる。

 

 その瞬間、静寂を破って何かが砕ける音がした。

 

 音の方に振り向くと、女神の彫刻が砕けて、エメラルドの水が滾々と湧きだした。

 

 パゴタは水没を恐れたが、やがて水は勢いを弱め、とうとう水が枯れるころには天井に小さな出口が顔を出していた。

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