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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
40/52

#40 涙の泉

 

 泥の底に沈んでいく。

 

 いや。

 

 きっとこれは血だ。

 

 僕が殺した人々、僕のせいで死んだ人々の血だ。

 

 地獄には煮え滾る血の海があるという。

 

 そこに向かっているのかもしれない。

 

 僕にはそこが相応しい。

 

 分不相応な夢を見た僕への罰は、きっと悲惨なものに違いない。

 

 でものどうか、シルファさんとジークさん……そしてレインだけは、幸せで生きて欲しい……

 

 その時だった。

 

 沈みゆくパゴタの両肩を白い手が掴んだのは。

 

 その手はパゴタを力強く引き、水面へと浮上していく。

 

 パゴタは抵抗したが、手は諦めなかった。

 

 やがて重たい水面を割ったパゴタの目に飛び込んできたのは、涙を流しながらパゴタの名を呼ぶレインの姿と、エメラルドの光に包まれた静かな霊廟の景色だった。

 

「パゴタ! 死んじゃダメ! 目を覚まして!」

 

 そう言ってレインは再びパゴタを泉の中に押し込んだ。

 

 呼吸のタイミングを逃したパゴタは両手足をバタつかせて必死でその手を逃れようとし、レインもそれに気がついてさっと手を離した。

 

「ぶはっ……‼ ぼ、僕は生きてるの……?」

 

「パゴタああああああ!」

 

 レインはパゴタに抱き着いて大泣きした。

 

「ごめんね……わたしのせいで一杯怪我させて、無理させて……ごめんね……生きてて良かったよぉおおおお」

 

 パゴタは状況が呑み込めないまま辺りを見渡した。

 

 深い群青色の陶器を思わせる美しい霊廟。

 

 美しい花々や、鳥たち、そして竜の姿と複雑な紋様が刻まれた墓石が壁一面に並んでいる。

 

 それらをエメラルド色の泉から出る柔らかな光が照らしていた。

 

 そして泉の周りを取り囲むようにブルメン・ネーブルの花が咲き乱れている。

 

 地上では白かったブルメン・ネーブルの花は、泉に照らされて翡翠色に染まっていた。

 

「ここはどこなの? それにこの泉の水、凄い魔力だ……信じられない。傷も魔力も全部回復してる……!」

 

「きっとここが古龍の霊廟なんだよ! それで、この泉の水が特効薬に違いないと思うの!」

 

 パゴタの頬に水滴が落ちてきた。

 

 見上げると天井には花冠を戴く春の女神の彫刻が施されていて、その瞳から泉と同じ光る雫が滴り落ちている。

 

「そうか……魔石で濾過された水がここに溜まるように設計されてるんだ……」

 

「女神さまの涙で出来た泉……」

 

 二人はしばらくの間泉の中で抱き合って天井を見上げていた。

 

 けれど突如パゴタはその状況を意識してしまう。

 

 レインの体温、触れ合う感触、息遣い……

 

 そして……

 

 そのどれもパゴタにとって刺激が強すぎたらしい。

 

 パゴタは一筋の血を流して白い灰になってしまった。

 

「ぱ、パゴタ⁉ どうしたの⁉ やっぱりまだどこか悪いの⁉ パゴタ⁉」

 

 そういうことに無頓着なレインの声だけが霊廟の中に響き渡って、英霊たちの声無き囁きや、女神の優しい微笑に二人が気付くことはなかった。

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