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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第一章【忘却に差す光】
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#04 回復祝いと先祖の祈り

 凍てつく夜空には結晶化した魔素が舞い、地上よりもはるかに薄い成層圏のベールの向こうでは星々が澄んだ光を放っている。

 

 窓の外に広がる、天蓋を埋め尽くす光子の競演に少年は思わず息を呑み見惚れていた。

 

 そんな少年の隣では、少女が指をさしながら誇らしげに星座の蘊蓄を披露している。

 

 迷子になった時に目指すべき星、探し物をする時に祈る星、そして誰かの無事を祈る時に見上げる星。

 

 そんな話を聞きながら、パゴタもまた星々を指さしては少女に尋ねた。

 

 その度に少女は、多少の作り話を交えながら、両親に教わった星々の逸話を語って聞かせる。

 

 そんな時突然、部屋の壁をコンコンと叩く音がして、二人は振り返る。

 

 そこにはお玉を持って壁をノックするシルファが立っていた。

 

「こらレイン! ご飯の準備も手伝わないで! それにパゴタはまだ病み上がりなんだから無理させないの!」

 

「いけない! つい夢中になっちゃって……ごめんねパゴタ。しんどくない?」

 

「平気だよ! もうずいぶんここの酸素にもなれてきたし!」

 

「それはよかったねえ」とシルファが微笑む。

 

 それから何か悪いことを思いついたときにする顔でにんまりとしてから、シルファは娘と少年を見比べて言った。

 

「それじゃあ明日からリハビリもかねてレインの仕事を手伝ってもらおうか?」

 

「いいの⁉」

 

 その言葉にレインが目を輝かせると、シルファはパゴタのベッドに腰かけて二人の頭に手を置いた。

 

「レイン。あんたは調子に乗って無茶しないこと。パゴタはレインの無茶を止めること。これが約束出来るならだよ」

 

「約束する!」

 

「僕も!」

 

 二人のそんな姿を見てシルファは満足げに頭を撫でて立ち上がった。

 

「その前に晩御飯だよ! 二人とも手伝ってちょうだい」

 

 雪銀羊のフェルトで作ったランチョンマットの上に、二人はてきぱきと高原胡桃(ハイランドオーク)の食器とカトラリーを並べていく。

 

 そこに天嶮ヤクのバックスキンで拵えたミトンを嵌めたシルファが熱々のダッチオーブンを抱えてやってきた。

 

「今夜はパゴタの回復祝いだよ! お父さんが獲ってきた七星鳥(ヘブン・ターキー)の香草焼きと、あんたの大好きな岩隠れ茸のシチューだ」

 

 そう言ってシルファが鍋の蓋を取ると、レモンにも似た香草の爽やかな香りと、香ばしいターキーの香りが部屋いっぱいに広がった。

 

 その匂いに誘われて、奥の作業部屋からフリークも顔を出し分厚い革のエプロンを脱ぎながらやって来て深呼吸する。

 

「素晴らしい出来栄えじゃないかシルファ」

 

「あんたの獲ってきた七星鳥が立派だったから、ついはりきっちゃったよ」

 

 そろって席に着くと、父フリークが手を合わせてご先祖様に感謝の祈りを捧げた。

 

「悠久の祖先達よ。星々に昇った英霊たちよ。日毎の食事と平和を感謝いたします。今宵の食卓にともに集い、我々を祝したまえ。全ての命にまつろふ(えにし)の元素達よ。我々の出会いを祝したまえ。パゴタと結ばれた新たな縁が永遠に素晴らしい思い出となるように」

 

 パゴタがそっと薄目を開けると、フリークスと目があった。

 

 慌ててパゴタが目を丸くすると、そんな少年に向かってフリークスは目配せする。

 

「さあ! 頂こう! 今日はお祝いだ! 新しい家族、パゴタに!」

 

 そう言って、高々と掲げたフリークスの蒼天山毛欅(そうてんブナ)のジョッキに、レインとシルファのマグがぶつかる。

 

 パゴタも照れくさそうに、遠慮がちに、その輪に加わってマグをぶつけた。

 

 こうして晴れて、パゴタはサンダース一家に加わることとなった。

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