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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
39/52

#39 楽園の門

 

 崩落するドームと逃げ惑う蜘蛛たち。

 

 全ての生物が生き残るべく出口を求めて騒乱する最中、パゴタは静かに泣いていた。

 

 その涙を、柔らかい手が拭う。

 

「泣かないでパゴタ」

 

「だって……君がもう……死んでしまったかと思った……!」

 

 パゴタの腕の中でレインは白い歯を見せてシシシと笑った。

 

 竜を彷彿とさせる尖った犬歯を見せて、いつものようにレインが笑う。

 

 まるで瓦礫はそんな二人を祝福するように、邪魔せぬように、避けて落ちる。

 

 偶然が生んだほんのわずかな凪いだ時間。

 

 パゴタはその瞬間を逃がさぬようにレインの身体を強く抱きしめていた。

 

 けれどその終わりはすぐそこまで迫っている。

 

 深い亀裂がドーム天井や壁を駆け巡り、それは二人の真上にも及んだ。

 

 先ほどの冥撃魔法でパゴタの魔力はすでに底をついていた。

 

 残っている力は《《代償》》を伴う力だけ。

 

 それでもパゴタに迷いは無い。

 

 そっとレインから腕を解き、少年は昏い瞳で天井を睨みつけた。

 

 レインはパゴタの変化にまだ気づいていない。

 

 少年が去り行く覚悟を決めたことなど知る由もない。

 

 けれど、花冠を戴く女神の祝福か、誰かの祈りの声が届いたためか、レインの目に〝ソレ〟はしっかりと飛び込んできた。

 

「パゴタ‼」

 

 レインが叫ぶ。

 

 思わずパゴタも振り返る。

 

 心配と優しさと悲しみが混じる瞳で。

 

 そこに映ったのは壁の方を指さすレインの姿だった。

 

「あっちに光る門がある……! ほら! あの壁の亀裂の向こう側!」

 

 そこには確かにエメラルドグリーンに輝く門が佇んでいた。

 

 パゴタはレインを抱き上げ、そちらに向かって全速力で駆け始める。

 

 崩れ落ちる瓦礫が、そんな二人の後を追いかけた。

 

 背後では土煙と轟音が絶え間なく響きわたり、生者を呑み込もうと躍起になっているのが伝わってくる。

 

 それでもパゴタは毒の回った身体が悲鳴を上げるのを無視して走った。

 

 あまりの速さにレインはパゴタの首にしがみつく。

 

 それでもとうとう獰猛な砂塵が二人の背中に追い縋ったころ、パゴタは思い切り地面を蹴って跳んだ。

 

 レインだけでも……

 

 それが想いの全てだった。

 

 それなのに、レインはきつく首にしがみついてパゴタを離そうとしない。

 

 まるで本能で分っているみたいに。

 

 パゴタは空中で体を捻り、右肩から門にぶつかった。

 

 その時、門の上に彫られた古代文字に気がついて、刹那の間にその意味をなぞる。

 

 〝悪夢の最奥に楽園の門を封ず―――〟

 

 薄れゆく意識の中で、パゴタはその文字列の最後に記された言葉を見た。

 

 そしてその事をレインに伝えなければと思う。

 

 しかし、パゴタの身体はとうに限界を超えていた。

 

 思いだけを残し、伝える間もなく、パゴタの意識が闇に沈む。

 

 門の内側に飛び込んだ二人は、凄まじい勢いのまま床を転がった。

 

 床を転がりながらも、レインは必死でパゴタにしがみついてる。

 

 やっと動きが止まって、レインが顔を上げると入口は瓦礫と砂塵で完全に閉ざされていた。

 

 

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