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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
30/35

#30 無言の行軍


 

 あれ以来、二人はほとんど口を開いていない。

 

 恐ろしい何かが穴の底にいる恐怖も間違いなくその原因ではあったのだが、直接の原因は別の所にあった。

 

 糸が垂れ下がっている。

 

 まるで行く手を遮るベールのように細い糸が垂れ下がっているのだ。

 

 その糸の先には青く光るブルネン・ネーブルの雫のような蜜が珠を作っている。

 

「これってブルネン・ネーブル?」

 

 美しさとブルネン・ネーブルの懐かしさからパゴタがそっと触れようとしたので、レインは慌ててその手を掴んで言った。

 

「ダメ……! これは《《ミリアポーダ》》の罠なの! もうミリアポーダのテリトリーに入ったんだ……」

 

「ミリアポーダ……さっきも言ってたけど、それはどんな怪物……?」

 

 パゴタの質問にレインは首を振ってから小声で答える。

 

「ミリアポーダは怪物じゃない。魔素で変異した蟲! とっても音に敏感で素早くて凶暴なの……ここからは静かに進まないと……」

 

「そのムシって大きいの……?」

 

 パゴタが青い顔でそう尋ねると、今度は静かにレインが頷いて見せる。

 

 最悪だった。

 

 パゴタは虫が大の苦手だった。

 

 だからこそレインはミリアポーダの正体についてギリギリまで伏せていたのだろう。

 

 レインの気遣いに感謝しつつも、パゴタは暗がりに目を凝らしていた。

 

 あちらこちらに光る雫のぶら下がった糸が垂れている。

 

 よくよく見れば猿蝙蝠の死骸らしきものも糸に絡まって宙吊りになっているのがわかった。

 

 サンドラもそのことに気付いたらしく、羽を畳んでぴょぴょこと地面を蹴りながら歩くようになった。

 

 糸を警戒しているのだ。

 

 霜降り鷲が警戒するほどの蟲の姿を想像してパゴタはさらに青褪める。

 

 気がつくと右手には固有魔法で作り出した赤黒い剣が握られていた。

 

 そんなこんなでかれこれ二人は一時間ほど口を閉ざしている。

 

 その間にミリアポーダの糸は数を増し、あたりからはカサカサという不気味な音が聞こえ始めた。

 

 慌ててそちらに視線をやっても、音の主の姿は見えない。

 

 どうやら横穴の奥や壁の亀裂に身を潜めているらしい。

 

「ねえレイン……」

 

 とうとう耐えきれなくなってパゴタが消え入りそうな小さな声で口を開いた。

 

「なあに?」

 

 負けじと小さな声でレインが囁く。 

 

「きっとミリアポーダはもう僕らに気付いてる……どうして襲ってこないんだろう?」

 

「隙を窺ってるんだよ……ミリアポーダはとっても頭がいいの」

 

 なるほどとパゴタが頷いた時、手に持っていたゾンネンタウモスの明かりが揺らいだ。

 

「おや?」と首を傾げるのと同時に、ゾンネンタウモスは唐突に光を失い、あたりは音もなく真の闇に包まれる。

 

 柔らかく、冷ややかな闇だった。

 

 慌ててランプを出そうとした時、レインの悲鳴が響き渡った。

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