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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
28/34

#28 見捨てられた縦穴〝ランゲ・ナハト〟 


  

 二人は先ほど陽喰苔(ゾンネンタウモス)を詰めた小瓶を取り出し、各々の手に持った。

 

 ゾンネンタウモスの光は陽だまりのように柔らかくあたりを照らす。

 

 それだけで二人はホッと胸を撫でおろした。

 

「すごいね……こんなにも温かい光を出すなんて!」

 

 レインがパゴタを見て微笑むと、パゴタもまたレインに微笑み返す。

 

「レインの機転のおかげだよ。それにしても、古龍の霊廟に続く道はどこにあるんだろう……?」

 

 パゴタは踊り場の壁面に空いた横穴の入り口を照らしながらごくりと唾を呑んだ。

 

 二人は穴に入ってから、ひたすらに下へ下へと進んでいる。

 

 けれどもし、この横穴のどれかが霊廟に続く道なら、それは途方もないことだった。

 

 縦穴よりも昏く、狭い横穴を見つめてパゴタは低い声で言う。

 

「ねえレイン……ここまでで踊り場を二十回通ったけど、もしこの横穴のどれかが霊廟に続いてたら……」

 

 レインもパゴタの横に並んで穴を見据えた。

 

 不吉な湿った風が二人の髪を揺らす。

 

「わたしも同じことを考えてたの……でも、もしそうなら、きっとパパとママが通った痕跡があると思うの」

 

「……‼ そうか、ジークさんは怪我してたから血の跡が残ってるかも……」

 

「うん。でも今のところ跡は無かった……それにずっと深いところで怪我してたら、ここを通る頃には血が乾いてたかもしれないし……」

 

「でも、二人の痕跡を辿るのが一番だ……むしろ、道を知らない僕らにはそれしか方法が無い」

 

 二人はこうして再び地下深くを目指して降りて行く。

 

 それから六つ目の踊り場に差し掛かった時、異変が起きた。

 

「ねえ? 何か音がしない?」

 

 レインがパゴタの裾を掴んで不快そうな顔であたりを見回している。

 

「音? 聞こえないよ?」

 

「うそ! 絶対聞こえる! なんていうか、金属みたいなキーンって音が……」

 

 その時だった。

 

 突然サンドラ鋭い嘶きをあげ、翼を広げて闇に飛び立つ。

 

 同時にゾンネンタウモスの淡い水色の光に照らされて、無数の黒紫色の影が穴の底から上へと翔け上って行くのが見えた。

 

 暗闇の中でサンドラが激しく何かと戦っているのを感じる。

 

「サンドラ……‼」

 

 レインが大声で叫ぶと、飛翔を続けていた影のうちの何体かがピタリと動きを止めて退化した真っ白な瞳でこちらを睨みつけた。

 

「うっ……⁉ 蝙蝠⁉」

 

 それは霜降り鷲に比べればずっと小さな蝙蝠だった。

 

 大きさにすれば、人間の子どもくらいだろうか?

 

 ヌメヌメとした液に覆われた薄い皮膚は皺だらけで、醜悪な顔には残忍さが滲んでいる。

 

「下がって……!」

 

 パゴタはレインを背後に回すと右手に魔力を籠めて攻撃に備えた。

 

 黒紅色の雷がバチバチと閃く。

 

 それを見て取って、蝙蝠の怪物は近づくのやめてガチガチと歯を鳴らした。

 

 蝙蝠はまるで猿人のような顔をしている。

 

 ちょうど頭髪に当たる部分に生えた黒い毛が、余計に彼らを霊長類じみさせていた。

 

フェアシュラーゲン(狡賢い者共)だ……気を付けてパゴタ! 牙に毒が……」

 

 レインが言い終わらないうちに、パゴタは緋色の雷を纏った槍を、左の手のひらから引きずり出して猿蝙蝠の頭を貫いていた。

 

 びたびたと音を立てて地面の上でのたうち回る亡骸に、無数の猿蝙蝠が殺到してその死肉を食い漁っていく。

 

「共食いしてる……」

 

 その時、再びサンドラの嘶きが響き渡り、光の線がぐるりと輪を描いた。

 

 それに触れた猿蝙蝠たちは焼き切れたように両断されて、ボトボトと穴の底に落ちていく。

 

「凄い! もう翼閃(バード・レイ)が使えるなんて……」

 

 魔力の光を帯びて輝くサンドラを見上げて二人は感嘆の声をもらした。

 

 ひきかえ、猿蝙蝠たちは落下する仲間の亡骸を食おうと、我先にと底の方へ戻っていく。

 

「行こう! あいつらが共食いしてる間に……」

 

 パゴタはレインの手を引いて静かに駆け出した。

 

 サンドラも羽音を立てずにそんな二人の後を追う。

 

 バーべリアの自然は厳しくも気高い場所だった。

 

 それなのにこの場所にはその気高さがまるで無い。

 

「必死に生きているんじゃない……《《生きることに必死なんだ》》……」

 

 ぽつりとつぶやいた少年の声に、少女はちらりとその横顔を盗み見る。

 

 その顔には、いつか見た苦悩がありありと蘇っていた。

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