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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
27/35

#27 午前と午後


 

 底知れぬ縦穴の側面を二人と一羽が下っていく。

 

 結局坑道の中にまで付いてくるサンドラを二人は伴っていくことにしたのだ。

 

 仲間がいるのは心強かった。

 

 まだ幼体とはいえ霜降り鷲はバーべリアの頂点捕食者の一角を担う生き物であり、幼くてもすでにその風格を湛えている。

 

 時刻は午前十一時ごろで、見上げると穴の入り口の東側に太陽の気配を感じることが出来る。

 

 太陽が高くなるにつれて、薄暗かった縦穴にも陽が差し込んできた。

 

 それは黄土色の岸壁を照らし、薄っすらと反射しながら奥底から立ち昇る闇を散らしていく。

 

 見ると僅かではあったが日の当たる場所には苔のような植物も生えていて、特異なバーべリアの中でもさらに特殊な生態系を形作っているのが見て取れた。

 

「まるで別世界みたいだ……」

 

 思わずパゴタが言うと、レインも好奇心に目を輝かせながら頷いた。

 

「実はわたしも初めて来たの。バーべリアにこんな場所があったなんて……」

 

 今まで姿を隠していたのか、苔は太陽の光に反応して細い茎を伸ばし、その先に薄紫の花を開かせた。

 

 パゴタはシルファの部屋から拝借してきた図鑑を開いてその苔の正体を確かめる。

 

「あった! 陽喰苔(ゾンネンタウモス)……鉱山種。主に光量の少ない洞窟の入り口などに自生し、日差しがある時間に茎を伸ばし太陽の光を吸収する。吸収した光を夜間に放出し、蟲をおびき寄せて捕食する。だって……これ虫を食べるのか……」

 

 パゴタが顔を引き攣らせながら言うと、レインは苔をガラスの小瓶に詰め始めた。

 

「なにしてるの⁉」

 

「暗い場所でランプの代わりになると思って! オイルは節約しなくちゃ」

 

 厳しい環境で生きてきたレインの機転と逞しさにパゴタは感心した。

 

 それからすぐに、自分の小瓶にもゾウネンタウモスを集めていく。

 

 そんなことをしていると、太陽は坑道の真上にやって来て、惜しみなく正午の燦然とした光を恵んでみせた。

 

 二人はどちらからともなく通路の淵に近寄って穴の底を覗き込む。

 

 もしかすると、底が見えるかもしれない――そんなふうに思ったのだ。

 

 しかし二人が目にしたのは太陽の光すら呑み込む虚無の暗黒だった。

 

 遥か下方に光を受け付けない闇が渦巻いているのを目にして、レインとパゴタの背筋に冷たいものが駆け抜ける。

 

 不意に二人は入り口を見上げた。

 

 すでに太陽は穴の西側に移動を始めている。

 

 つまり陽が差し込むのはあとほんの僅かな時間だけで、あとに残されたるのは底知れぬ闇の時刻なのだ。

 

「行こう……僕らがここに入ったのは午前十時頃だ。つまり午後二時を過ぎないと日は暮れない。それまでに何とかダンジョンの入り口を見つけよう」

 

「うん……暗くならないうちに!」

 

 しかしその読みは甘かった。

 

 穴の底に進むほど、当然日入り口から差し込む光は減衰していく。

 

 午後一時になる頃には、二人の周囲は黄昏時のように輪郭を(かす)かなものに変えていた。

 

 ここはバーべリア坑道。

 

 バーべリアの高原が忘られた地であるならば、この縦穴は神々さえも見捨てた影と闇の領域。

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