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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第二章【翠泉花と古龍の霊廟】
26/32

#26 バーべリア坑道


 

 調理器具、携帯燃料、救急セット、薬草類、寝袋、雪銀羊の毛、そして水と食料。

 

 それらを各々のリュックに詰め込んで、二人は小屋の出口に立った。

 

 どちらともなく振り向いて、石化したジークとシルファに言う。

 

「パパ、ママ……必ず特効薬をとって戻ってくるよ」

「行ってきます。父さん……母さん」

 

 小屋からさらに少し登ったところにバーべリア坑道の入り口がある。

 

 そこから坑道にそって地下に潜れば最悍級ダンジョン〝古龍の霊廟〟への入り口があるらしい。

 

 特効薬がどんなものなのかも分からないまま、二人は戸をくぐり外へ出た。

 

 幸いなことに雨は上がっている。

 

 まるで死地に旅立つ二人を、花冠を戴く女神が祝福するかのように、一本の光が天から差して花びらを含む一陣の風が吹き抜けた。

 

 同時に鋭い嘶きが周囲に木霊する。

 

 二人は顔を手で覆い、差し込んでくる光の中に目を凝らした。

 

「サンドラ!」

 

 レインが明るい声を出すと、霜降り鷲の幼体――とは言っても人間の大人をはるかに上回る大きさなのだが――が急降下してきて、地面にぶち当たる直前に翼を広げ、ふわりと前に降り立った。

 

「どこに行ってたの⁉ 心配してたんだから!」

 

 そう言ってレインはサンドラの首にしがみつく。

 

 霜降り鷲はそんなレインを優しく嘴でグルーミングしながら、何かを訴えかけている。

 

 パゴタが見ると、サンドラは嘴に何かを咥えていた。

 

 それは漆黒の細い鎖に繋がれた青銅色のペンダントのようだった。

 

「レイン、サンドラが君へお土産を持ってきてるみたいだよ」

 

 レインは首から離れてそれを受け取った。

 

「何だろうこれ? 綺麗だけど、見たことない紋様が入ってる」

 

「呪いや魔力は感じられないね。きっと古いアクセサリーだよ」

 

 レインはそれを首にかけてサンドラに礼を言った。

 

「ありがとうサンドラ。元気が出たよ! でもわたしたちこれから行かなきゃならないの。わたしたちが戻るまでお家を守っててね?」

 

 そう言って歩き出した二人だったが、霜降り鷲は飛び立つ素振りも見せずに、ずっと二人の後ろをついてくる。

 

「ついてくるね……」

 

「うん。こんな行動はじめて……」

 

 そうするうちに、あたりに生えた柔らかい緑の牧草はごつごつとした黄土色の岩に置き換わっていく。

 

 やがて草木は姿を消して、周囲は荒涼とした鉱山地帯に、バーべリアが天嶮たる由縁、何人をも寄せ付けない高潔にすら思える死の気配が二人を出迎えた。

 

「ここからがバーべリア坑道だよ。危険な生き物もいるから気を付けて……」

 

「こんな場所にも生き物がいるの?」

 

「うん。哺乳類はほとんどいない。でも魔素で変異した《《ミリアポーダ》》が危ないの」

 

「ミリアポーダ?」

 

 その時、目の前が突然開けて、パゴタは思わず息を呑んだ。

 

 巨大な縦穴がぽっかりと口を開けている。

 

 穴の側面には馬車が通れるほどの広さの螺旋階段のような傾斜が設けられており、傾斜のところどころには踊り場のように広くなっている箇所があった。

 

 そしてその踊り場には奥へと続く暗い横穴が空いている。

 

「神々の時代に、雷帝グングニルが放った槍がバーべリアを穿ったの。この穴はその時出来た穴で、穴の底では今でも荒廃王〝デア・ヘア・デア・クランクハイト〟が消えることの無い雷によって磔にされているって……」

 

 二人の頬に冷たい汗が流れて、それを穴の底から吹き上げる風がさらった。

 

 まるで荒廃王の唸り声のような風の音を聞き、怯みそうになる気持ちを奮い立たせ、パゴタはレインの手を引いた。

 

「行こう……急がなくちゃ!」

 

「うん……!」

 

 こうして二人はぐるぐると底に向かうなだらかな螺旋の下り道を、一歩一歩確かめるように降り始めた。

 

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