#23 一変
翌朝、サンダース一家はジークの声で目を覚ました。
一番鶏が鬨の声を上げると同時にジークの朗々とした声が響き渡る。
「おはよー! 昨日は心配をかけたね! この通りもう大丈夫!」
慌てて飛び起きたレインとパゴタはジークが両手に力こぶを作って笑う顔を見て心底安心する。
しかしシルファは怖い顔でジークに言った。
「あんた! 何馬鹿なことを言ってんだい⁉ あんなに熱があったんだ! 今日は安静にしてなきゃだめだよ!」
「それが、驚くほど身体が軽くてね。シルファの薬酒が効きすぎちゃったみたいだ。ははは!」
頭を掻きながらジークは困ったように笑い、それを見たシルファはふぅとため息をつきつつも、どことなく安堵の色が窺えた。
「汗をかいて気持ちが悪いから、少し湯浴みしてくるよ」
「じゃあ僕が火を!」
そう言ってパゴタは火の準備に取り掛かった。
「パパ、本当に大丈夫なの? 今日は無理しなくたって」
レインが少し心配そうに尋ねると、ジークは娘を肩に担ぎ上げて言った。
「ほら! 心配ないだろう?」
「余計な体力を使うのはおよし! まったく……一体何だったんだんだろうね? 風邪にしちゃあ何か妙だよ?」
「うーん……ブルネン・ネーブルの食べ過ぎで熱が出たとか……?」
「もしそれがホントなら、これからブルネン・ネーブルの量をあんただけ減らすことになるよ!」
再び頭を掻きながらジークは困ったように笑った。
「シャワーの準備ができたよ!」
パゴタが窓から声を掛けると、ジークはシルファから逃げるようにして浴室に向かう。
丘の上に据えたタンクから引いたパイプの途中には焚火小屋がこしらえてあって、その火で熱されたパイプを通った水が湯に変わる仕組みのシャワーは、水が乏しいバーべリアの高原地帯で暮らすサンダース一家にとっては贅沢なものだった。
週に一度のシャワーをみんな心待ちにしている。
元気そうなジークに安堵したシルファが浴室に向かうジークの背中目掛けて言った。
「お湯を湯船に張っておいておくれよ? 《《あんた達》》が入ったら、レインとアタシも入るんだから!」
「ほーい!」と陽気な返事をしながらジークはパゴタに目配せする。
「でも……」と病み上がりのジークに気を使うパゴタにシルファはタオルを二枚投げて寄越す。
「あの人、タオルも用意せずに行っちまったから、それを届けてきておやり? ついでにパゴタも入ってくるんだよ!」
パゴタはタオルを受け取ると、嬉しそうに頷いて浴室の方に向かった。
不運と呼ばれるような出来事も、サンダース一家は喜びに変える強さと優しさを持っている。
それを噛みしめながらパゴタはジークとともに温かいシャワーにありついた。




