#20 料理の心得
その日からシルファによる料理の手ほどきが始まった。
散々逃げ回っていたくせに、パゴタの隣にはレインの姿もある。
「なんでアンタもいるんだい?」
腰に手を当ててシルファが言うとレインは同じように腰に手を当てて「ふふん!」と鼻を鳴らして答えた。
「せっかくパゴタが料理するんだよ⁉ 一番に食べたいに決まってる! それにやっぱり味見役がいなくちゃ!」
シルファは大きくため息をつくと、調理台の前に立ってパゴタを手招きした。
「いいかいパゴタ? 料理って言うのは戦いであり錬金術だよ! 調理道具はそれを支える相棒でもある。だから手入れを怠っちゃならない。長く大事に使うことを考えるんだ!」
「わかった!」
パゴタはそう言ってメモを取る。
真剣な表情を浮かべるそんなパゴタを見下ろしたシルファは「フッ」と微笑んでから顔を覗き込む。
「でもねえパゴタ。《《いっちばん》》大事なことはそんなものじゃないんだ。何だと思う?」
「やっぱり……味付けとか……?」
自分で言っておきながらパゴタはその答えに自信が無い。
案の定シルファは首を横に振ると、レインを指さした。
「レイン⁉」
「わたし⁉」
シルファはニヤリと笑ってから、パゴタに指を向け、今度はジークの方にも指を向ける。
レインとパゴタは顔を見合わせたがやはり答えが見つからない。
「分かりません……」
観念してパゴタがそう言うとシルファはカっと笑ってから、優しい表情を浮かべて答え合わせをした。
「いいかい? 料理で一番大事なことは、食べてくれる大切な人の顔を思い浮かべながら作ることだよ? 美味しさもそうだけど、栄養のことや心模様のことも考えて作るんだ。料理は美味しさだけを求めて作るものじゃなく、食べてくれる人の健康や本当の意味での笑顔を思い浮かべて作るんだよ?」
「わかった! 忘れない!」
パゴタがそう言うとシルファは満足げに頷いた。
「だからママの料理はどれも美味しんだね!」
「調子のいいこと言うんじゃない!」
シルファはそう言って軽い拳骨を落としてから、パゴタに囁きかけた。
「さっき料理は戦いだって言ったろう? 食事っていうのは毎日のことだ。疲れてると作る気になれない日だってやってくる。それでもね、愛する家族のことを思えば、戦うぞ! って気持ちが湧いてくるってもんだよ! パゴタは誰のために料理を作るんだろうね?」
そう言って悪戯っぽく「ひひひ」と笑うシルファの横で、パゴタは顔を真っ赤にしながら俯いた。
どうやらまだまだ料理の神髄をパゴタが身に着ける日は遠そうだと思いながらも、シルファは慣れた手つきで夕飯の支度をはじめ、パゴタは見様見真似でおっかなびっくり手伝いに取り掛かるのだった。




