#02 窘めるフリークの言葉
曲がりくねった木で造られた窓から差し込む木漏れ日―――それと窯から微かに漂う焚火の匂いが優しく満ちた部屋で、レインは少年の眠る綿毛草のベッドに両肘をついたまま、いつしか眠っていた。
扉が開いて現れたのは父のフリークだった。
一目で状況を理解したフリークは大きな体に似合わない優しい声で一言だけ「おやおや」と呟いたのだった。
レインはその言葉が何を意味するのか知らなかったし、知ればきっと困ってしまっただろう。
ただその時は、家に置くことを反対したり、怒ったりしなかった父の態度にほっと胸を撫でおろした。
「この子の治療はどんな様子だい? シルファ」
「落ち着いたわ。治癒の魔法が効かないから雪アザミの根を煎じた薬を飲ませたし、越冬かずらのシードオイルで傷は消毒してある。高山病もこの子ならすぐに克服するでしょう」
「そうか。大変だったね」
そう言って互いの背中に腕を回す両親を見て、レインはもう何度目かわからない安堵のため息をついた。
ママの雷は怒り狂う雷鳴竜より恐ろしい。
それでも二人がこうして抱き合ったということは、悪いことは起こらない。
すくなくともレインが覚えている限りでは一度だってそんなことは起きなかった。
「ねえパパ? この子、天竜の牙に倒れてたんだけど、一体どうやってあんなところまで来たのかしら? 見たところ登山の装備もないみたいだし、持ち物だって何も持ってなかったのよ?」
「レイン、きっとこの子は大変な思いをしてここにやって来たんだ。目が覚めても質問攻めにしたりしてはいけないよ?」
「どうして? お互いを知ることは何よりも大切だって、いつもパパ言ってたじゃない」
フリークは娘のおでこに自分の額をあてる。
ごちん……と音がして、レインは思わずおでこに手を当てて仰け反った。
「レイン。辛い過去を見ず知らずの者に根掘り葉掘り聞かれたらどう思う? しかも相手が命の恩人なら、答えないわけにもいかないだろう? それはとても乱暴なことだ」
「ごめんなさい……気を付けます」
「よろしい」
そう言って父親は満足そうに微笑むと、妻の用意した食事を求めて居間のテーブルの方に歩いて行った。
そんな父の後を追ってレインも席についたものの、少年のことが気がかりで食事どころではなかった。
そそくさと食事を済ませて高原クルミの木でできた食器を片付けると、少年の眠るベッドに両肘をついてその顔を眺めて過ごした。
日没間際の夜空を思わせる髪の色は、光の角度で色が変わる。
白い肌は早朝に下りた霜のように柔らかい。
「いったいどこから来たんだろう?」
そんなことを夢想するうちに、いつしか少女も微睡みの中に落ち込んで、少年のベッドで眠ってしまった。
そんな娘に、母はやさしく雪銀羊の毛糸で編んだブランケットを被せるのだった。




