#17 ブルメン・ネーブル
甘い香りに誘われるように、パゴタは目を覚ました。
開け放たれた窓からは木漏れ日と共に皐月の風が入り込んでくる。
白いカーテンを揺らす優しいその風にこそ、甘い香りが含まれているのだと気が付いてパゴタは大きく息を吸い込んだ。
先のバルバドス飛空艇団との戦闘を切り抜けた後、パゴタは改めてサンダース一家に加わった。
すぐにでもレインとの結婚を進めようとする夫妻を前にパゴタはどうすればいいか分からず狼狽したが、そんな夫妻もレインが落とした雷で見事に静かになった。
「私たちの結婚のことは私たちが決めるから!! 二人は口を挟まないで!!」
それを聞いたパゴタは耳まで赤くして言葉に詰まったが、当の本人にとって深い意味はないらしく恥じらう様子もない。
そんなこんなで季節は少し過ぎて、天嶮バーベリアに初夏が訪れた。
緑は柔らかく大地を覆い、その上には色とりどりの花が咲き乱れている。
窓辺に立って楽園のようなバーベリアの景色を眺めていると、部屋の扉をノックする音がしてパゴタは振り返った。
「おはよう! ねえパゴタ! 〝ブルメン・ネーブル〟を採りにいこうよ!」
すっかり傷が癒えたレインが満面の笑みでそう言った。
けれどパゴタにはブルメン・ネーブルが何なのかが分からない。
「それって危ないものじゃない……の?」
霜降り鷲の一件が頭を過ってパゴタはやや警戒気味にレインの顔を覗き込んだ。
するとレインはクスクス笑ってパゴタの手を掴む。
「付いてきて!」
結局それが何なのか分からないまま、パゴタはレインに連れられて小屋の外へと飛び出していった。




