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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第一章【忘却に差す光】
14/32

#14 我が名は

 

 砲撃の雨に向かってシルファは手のひらを翳し、自身の魔力を開放した。

 

「奏嵐魔法〝かき乱す旋律(テンペスト)〟」

 

 弾幕の中心に突如として圧縮された暴風の塊が出現する。

 

 それは核を取り巻くように縦横無尽の乱気流を生み、砲弾を出鱈目な方へと吹き飛ばしてしまう。

 

「構わず撃ち続けろ!」

 

 艇内では怒号が飛び交い、総員が次々と次弾の準備を進め弾を発射していく。

 

 無数の砲弾が一家を襲うそんな中、フリークは表情ひとつ崩さずに次の標的を見据えていた。

 

 一撃で最も多くの飛空艇を狙えるよう的を絞ると、容赦無い殲滅の閃光がそこを通り過ぎて残骸が煌めきながら降り注いでいく。

 

 シルファもまた荒れ狂う濃縮台風を二個、三個と展開し、砲弾を寄せ付けないばかりか攻撃に転じる。

 

 次々と撃破されていく飛空艇団を見てパゴタはいつしか拳を強く握りしめて声援を飛ばしていた。

 

「いける……! なんてすごい魔力なんだ⁉ これなら上級魔族。いや、最上級魔族にも引けを取らない!」

 

 飛空艇団元帥もまた、思わぬ脅威として立ちはだかるフリークとシルファを前に考えを改める。

 

 陣形を組みなおし、精鋭で編成された落下傘部隊を投下するよう艇間無線で激を飛ばした。

 

「三艇ごとに固まり反魔法回路を展開せよ! 落下傘部隊は中級以上の魔導兵器を携行し小隊ごとに敵殲滅に向かえ! 実弾に魔導砲を混ぜて乱気流を貫いてやれ!」

 

 歴戦の元帥は不遜ではあったが、慢心することもなかった。

 

 すぐさま目算と現実のずれを受け入れ軌道を修正する。

 

 新たな作戦の展開と、圧倒的な数の暴力はじわじわとフリークたちを追い詰めていった。

 

「シルファ……! 私の近くに! 分断されては不利だ!」

 

「そうしたいのは山々だけど、反魔法回路と魔導兵器が想像以上に鬱陶しいね……! あんたも寄ってきておくれよ!」

 

 中級魔族の魔法を駆使した精鋭を相手取りながら、魔法攻撃が一切通じない状況と、砲撃による物理攻撃。

 

 殲滅魔法の範囲攻撃も、集結して防壁を張った飛空艇には届かない。

 

 先ほどまでの興奮が一気に冷めて、パゴタは絶望に染まった目で二人を見やって叫んだ。

 

「シルファさん! 僕も加勢する! この結界魔法を解いて!」

 

「馬鹿言うんじゃないよ! あんたにこれ以上誰かを殺させたりしない!」

 

 そう叫び返したシルファに、七発の光弾が襲い掛かった。

 

 パゴタは思わず悲鳴を上げたが、シルファは寸でのところで防御魔法を展開し、なんとか直撃を避けている。

 

 しかしその肩からは血が流れ、腕を伝っていた。

 

「女の方が崩れたぞ! 畳みかけろ!」

 

 精鋭部隊が一斉にシルファに銃口を向ける。

 

「貴様らぁああああ……!」

 

 怒り狂ったフーリクが殲滅魔法の昏い光を身に纏ってそちらに飛び込んだ。

 

 激しい魔力の衝突であたりが砂埃に覆われる。

 

 それが晴れると、そこにはボロボロになりながらも全ての魔法を相殺したフリークと、その背後で夫の身を案じるシルファの姿があった。

 

「反魔法領域を展開しろ! ここで勝負を決める!」

 

 飛空艇団の反魔法障壁が解かれて、サンダーズ一家が暮らす丘の上をオーロラのようなベールが包んだ。

 

 それと同時にシルファの結界魔法が粒子状に解けて消えてしまう。

 

 パゴタはそれと同時に小屋を飛び出し、冥撃魔法の剣を帯びて二人のもとに向かった。

 

 けれど手にした剣はただの漆黒の鉄塊で、赤黒い雷が閃くことはない。

 

 そんな少年を見つめる兵士たちの目は嘲りと侮蔑に満ちていた。

 

「パゴタ、下がっていろ……! 君が手を汚す必要は無い」

 

 傷だらけのフリークが優しく微笑んで言うその言葉に、パゴタは泣きながら首を振る。

 

 その時、良く響く声が上空から聞こえてきた。

 

「勝負あったな。バーべリアの住人」

 

 そう言って元帥が飛空艇から姿を現した。

 

 軍服の上から纏った緋色のマントをはためかせ、男は声高に宣言する。

 

「我が名はゲルニカ! バルバドス飛空艇団を相手取り、貴様たちはよく戦った。その功績を称え、その魔族を引き渡し、我が帝国に永遠の忠誠を誓うならば貴様ら家族の命は救うと約束しよう」

 

 それを聞いた兵士たちから拍手があがる。

 

 敵にまで寛大な元帥に誉れあれと、数名の兵士が叫んだ。

 

 地上に降り立ち、満足げに口角を吊り上げるゲルニカを、フリークは鋭い目で睨みつけ胸を張った。

 

「言ったはずだ。ここにいるのは我が家族のみだと」

 

「ならば仕方ない。貴様もその女も、魔族と一緒に研究室送りにしてやる。人間でありながらなぜこれほどの魔力を有しているのか……研究室の連中も興味が尽きないだろう」

 

 それを聞いたフリークは俯いてクク……と肩を震わせ笑った。

 

「人間だと……? 冗談が好きなんだな人間は」

 

 ピクリとゲルニカの眉尻が動いた。

 

 フリークは胸いっぱいに空気を吸い込むと、凄まじい大声で叫んで言った。

 

「我が名はフリーク……! 天嶮のバーべリアを守る竜人族。またの名を殲滅竜ジーク・フリークなり……!」

 

 その咆哮で大気が震え、兵隊たちが吹き飛ばされた。

 

「防御陣形展開……! 最大レベルの警戒態勢をとれ!」

 

 ゲルニカが叫ぶのとほとんど同時に、シルファがパゴタの耳に手を当てた。

 

 それを確認すると、フリークの身体が煌めく鱗に覆われ竜の血を発現する。

 

「反魔法回路とやらで、これは防げるのか? 殲滅の咆哮(ブレス)!」

 

 激しい竜の息吹が丘の上に吹き荒れた。

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