#13 バルバドス飛空艇団
ドアを押し開き外に出たフリークとシルファの目に無数の飛空艇が飛び込んできた。
雲海の上で隊列を組む飛空艇の群れは渡り鳥のように矢じりの陣形をとっている。
二人がそれらを見据えて静かに魔力を滾らせていると、先頭のひと際厳つい装甲を備えた母艇から魔道具で増幅した声が響き渡った。
「我々は神聖なるバルバドス帝国が空の戦士、バルバドス飛空艇団である。大人しく魔族の子どもを引き渡し投降せよ。お前たちには魔族隠匿の罪と、先のガンガルド中将殺害の容疑が掛かっている」
それだけ言うと、全ての飛空艇が一斉に砲門をサンダース一家の小屋へと向けた。
一切の余地が無いのを悟り、フリークスは大きく息を吸い込むと、大気が裂けんばかりの大声で叫んだ。
「ここにいるのは《《我が家族のみ》》! 貴殿らの要求に応える義理は何一つない……!」
その言葉でパゴタは目を見開いた。
これだけの帝国空軍を前に、一切怯むことのないフリークの胆力と、決して自分を見放さない覚悟に鳥肌が収まらない。
けれどそんなフリークを死なせたくないと、パゴタは強く想った。
だから少年は、自らも小屋から飛び出し大声をあげる。
「やめろ……! この人たちは関係ない……僕を、僕だけを連れて行け……!」
「パゴタ……」
フリークとシルファはそんな少年を見て悲し気に微笑む。
「まだそんなことを言ってるのか。お前はもう私達の家族だ。正直に言うと、レインの婿になってくれればと願っている」
「な、な、な⁉」
思わぬ言葉にパゴタは顔を真っ赤にして後ずさりした。
「ふふふ。もちろん無理強いはしないよ? でも、レインもまんざらじゃないと思うんだ。パゴタはレインが嫌いかい?」
シルファまでもがそう言ってヒヒヒと肩を震わせた。
「そ、その質問の仕方はズルい!」
「大人はズルいもんさ。パゴタ。レインのそばについてておくれ」
「ああ。それに向こうが狙ってるのは君だけじゃない。天嶮バーべリアの忘れ去られた鉱山。そこに眠る魔石をも狙っているのだろう。我々が結んだ古き盟約は、欲に目がくらんだ人間には効力を持たぬと見た」
その時再び飛空艇から声がした。
「投降し、魔族を差し出せ。これが最後のチャンスだ。以後交渉の余地は無いと思え」
「さあパゴタ。小屋の中に。ここは私達にまかせない」
そう言ってシルファはパゴタを小屋の中に押し込み、強力な結界魔法で封をしてしまった。
そんな中、フリークは踏みしめるようにして歩み出ると、両手を前に突き出して叫んだ。
「はっきり言っておく。息子を差し出せなどと言う馬鹿げた話に、こちらはもともと交渉の余地など微塵もない……! 殲滅魔法〝凡てを塵に還す衝撃〟」
鈍色の衝撃破がフリークの手から水平に放たれた。
それが通り過ぎた空間にある全ての分子が結合を解かれて弾け飛んでいく。
「総員取り舵! 上下に散って一斉射撃を開始せよ……!」
逃げ損ねた飛空艇が粉々に砕けて降り注ぐ中、生き残りの艇が激しい砲撃を開始した。
迫りくる砲弾を前に、シルファとフリークはきつく抱き合い。愛と互いの無事を祈り合う。
パパとママが抱き合えば何が起きても大丈夫。
レインの言葉が、小屋から二人を見守るパゴタの中に蘇った。




