#11 家族の意味
重たい沈黙と窓を叩く雨音。
以前パゴタが横たわっていたベッドに、今度はレインが眠っている。
並みの魔力では到底破壊できないはずのお守り魔法とブレスレッド。
その二つを同時に砕かれたフリークとシルファの顔は険しい。
それでも二人はパゴタを責めることも、言い争って声を荒げることもなく、粛々とレインの処置を済ませると、安寧カミツレのハーブティーを淹れて「ふぅ」と一息つくのだった。
「もうレインは大丈夫だ。パゴタ、君に怪我はないか?」
その言葉でパゴタはズク……と胸が痛んだ。
敵の攻撃でついた怪我はない。
痛むのは、二人からもらったブレスレッドを無理やり破壊した時についた手首の傷だけだった。
「ありません……」
小さな声でそう言うと、シルファが少年の腕をむんずと掴んで引っ張り上げた。
魔力片が今も刺さって血が出る手首を見て、シルファは初めて怖い顔でパゴタを睨みつけた。
「これのどこが無傷だって言うの⁉ この《《馬鹿息子》》!」
それを聞いた途端に、パゴタの中で崩れ落ちた。
堰を切ったように涙が溢れ、嗚咽と鼻水が止まらないまま、パゴタは大声で言った。
「ごべんなざい……ぼく、初めてもらったプレゼントだったのに……約束やぶっで……でも、レインと母鷲を守らなくちゃって……僕のせいで、レインも、鷲も……みんな不幸になる。僕なんか生まれてこなけれなよがったんだ……!」
そう言って泣くパゴタの頬をシルファの平手がピシャリと叩いた。
それから呆気に取られるパゴタの肩を頬を叩いたのと同じ手が優しく包んだ。
「生まれてこなければ良かったなんて、二度と言うんじゃない。あんたがそれを認めたら、苦しんでる他の全ての魂にも同じ言葉を言うことになるんだよ?」
「でも……僕のせいでレインは……」
「家族はね、幸せも不幸も分け合うためにあるんだ。誰か一人に不幸を押し付けるために、一緒にいるんじゃない。一緒に悲しんで、一緒に笑って、全部分け合うためにアタシたちは出会ったんだよ? それにレインはこんなことくらいで、あんたにいなくなって欲しいと思うかい?」
パゴタは何も答えることが出来ずに、ただただ首を横に振った。
それを見たシルファが再び穏やかな笑みを浮かべてパゴタを抱きしめる。
「あんたはもう大事な家族なんだよ。そのことを忘れないで」
フリークはそんな様子を見守りながら優しい声でこう付け加えた。
「パゴタ。レインを守ってくれてありがとう。勇敢だったな。それに母鷲の魂もちゃんと連れて戻ってきた。あの子はうちで大事に育ててみよう」
そう言ったフリークの視線の先では、レインが背負っていた霜降り鷲の卵が毛布に包まれて眠っていた。
「失われたものは戻らない。けれど何もかも失ったわけではない。私達は、そんな儚い世界で懸命に生きるしかないんだ。君が懸命に同胞たちを守ろうとしたことも、決して間違いや裏切りなんかじゃない」
それを聞いたパゴタの目が大きく見開かれる。
「どうしてそれを……?」
「何度もうなされていたからね。その度に必死で謝罪する君と、あの人間が持っていた魔道具を見て大体の事情は理解したつもりだよ。よければ話してくれないか? 一体下界で何が起きたのか」
パゴタが口を開きかけたその時、シルファの人差し指が少年の唇に触れた。
「話はこの怪我を治療してからだよ」
こうしてパゴタは酷くしみるカミナリアロエの傷薬を塗られながら再び涙を流すことになった。
けれど不思議と、その痛みは悪くないものだとパゴタは思った。




