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天嶮のファミリア  作者: 深川我無@書籍発売中
第一章【忘却に差す光】
10/35

#10 非道


『非力な人の子は爪も牙も持たなかった。内に秘めたる魔力にも乏しかった。それゆえ非力な人の子らは力を求めて、園の中央に生えた知恵の木からとって食べた』

 

 創生の書 第一章〝失楽園〟より

 

 パゴタの膨大な魔力が禍々しい赤と黒の雷に変わり雲を焦がす。

 

 縦横無尽に空を飛ぶ男はそれを躱しては魔道具から照射される漆黒の閃光でパゴタを狙い撃った。

 

「さすがは冥々童子……! 凄まじい魔力だな……!」

 

 男はそう言って魔道具を連射する。

 

 襲い来る四本の暗黒魔法をパゴタは両手に纏った黒紅色の雷で叩き落とした。

 

「こいつでも無理となると、少々ズルい戦い方をさせてもらおう……か!」

 

 男の魔道具が母鷲に向けられ魔法陣が空に描かれる。

 

 先ほどまでよりも強大な闇の奔流が卵を抱える母鷲に襲いかかるのを見て、パゴタはすぐさまその間に割って入った。

 

「冥撃魔法、ジハディランサ」

 

 赤い雷を帯びた黒鉄の槍がパゴタの掌から生えるようにして現れ、男の魔法を迎撃する。

 

 すると衝突した魔力が渦を巻き、乱気流が巻き起こった。

 

「ぐっ……⁉ ならこっちは防げるか⁉」

 

 男は気を失ったままのレインに魔道具を向けて叫んだ。

 

 その瞬間、パゴタの中の憎悪が激しく燃え上がる。

 

 黒い閃光よりも速く、パゴタの身体が反応した。

 

 レインに迫る暗黒魔法を右手で握り潰し、血走った目で男を睨んで言う。

 

「どうして……貴様らはこんなにも非道いことが平然と出来る……⁉ レインも母鷲も殺す必要なんてないのに……」

 

「言ったはずだぜ? お前のせいだとな!」

 

「エスターがそうなったのも僕のせいか……? 人間がエスターの魔法を使えるはずがない……その魔道具は《《エスターなんだろ》》……?」

 

 男はニヤリと笑って魔道具の外装を外した。

 

 そこには無数のチューブに繋がれた少女の顔が入っていた。

 

 その表情は虚ろでありながらも、口元に確かな苦悶を浮かべている。

 

 中身を目にしたパゴタは血の気が引き、同時にわなわなと震えた。

 

「魔族を使った武器の開発! これこそが知恵と科学の結晶! お前たち魔族を根こそぎ武器に変えたら、バルバドス帝国は今度こそ世界を獲りに行く! そのための犠牲が鳥と娘っ子一人ならおつりが来るってもんだろう……が……?」

 

 男の見る景色がクルクルと回転した。

 

 視界が高くなり、次いでどんどん下がっていく。

 

 男は首を失った自分の胴体を見て、自分の状況を理解した。

 

「もういい……もう、喋るな……」

 

 パゴタの手には魔力が渦巻く黒い剣が握られていた。

 

「馬鹿な……⁉ 俺に貴様らの魔、法は……」

 

 遥か下界に堕ちていく首を見下ろすパゴタの目は、昏い翡翠色をしている。

 

 突然降り出した雨に濡れながら、パゴタは母鷲と卵に目をやった。

 

 息絶えた母鷲に潰されて卵が割れている。

 

 それを見て途轍もない徒労感と絶望が少年の胸に込み上げた。

 

「そんな……全部僕のせいだ……僕の……レイン……!」

 

 パゴタは縋るような気持ちでレインのもとに駆けよった。

 

「レイン……! 目を覚まして……!」

 

 返事は無い。

 

 心なしか先ほどより息も浅くなっている。

 

「誰か……助けて……誰かァアアア……!」

 

 その時パゴタを穿つ雨がピタリと止んだ。

 

 見上げると、悲しそうな顔のシルファとフリークがそこに立っていた。

 

「パゴタ……遅くなってすまない。辛い思いをさせてしまった。帰ろう。もう大丈夫だ」

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