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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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取り立て屋にわからせる

椅子から立ち上がったノクスは、朝食の残りのパンを掴むと、薄暗い廊下へと踏み出した。


風化した石造りの門前には、不吉な空気を纏った男が立っていた。

男は悪名高い取り立て屋のグリードだ。


グリードは巨漢の中年男で、頭頂部が薄くなったボサボサの金髪をしている。

汚れた服装と荒々しい態度からは、その正体が一目瞭然だった。

善良な商売人などではありえない。

グリードの目つきと物腰には、弱みに付け込むことを糧とする者特有の底意地の悪さが滲み出ていた。


「元締めからの特別な指示でな、アルヴェイン家との取引は本日をもって終了だ。ってわけで、未払い分の債務を即刻、全額払ってもらうぜ」


グリードが威圧的な態度で宣言する。

グリードと対峙しているリリィは、小さく息を呑んだ。


「そんな……」


リリィの細い肩は僅かに震える。

それでも彼女は勇気を振り絞り、懸命に訴えかけた。


「で、ですが……次の支払いまでは、まだ猶予があるはずです。契約では、そう決められていました」

「だーかーらー事情が変わったんだよ。そもそも、アルヴェイン家みたいな没落貴族に分割払いを認めてやったのは、こっちの温情だってことを忘れてねぇか?」

「そ、それは……もちろん感謝しております。でも、私たちは約束通り利息もお支払いして……」

「ああん!? 利息なんて払って当たり前だろうが! たとえ法外な額でもな!」

「きゃっ……!」


怒鳴られたリリィが思わず身を縮こませる。

グリードは、怯えるリリィを満足げに見下ろすと、大げさな態度で続けた。


「あーあー、まったく。図々しい借用人の相手をさせられるなんて、俺はなんて可哀想なんだ。アルヴェイン家なんかに金を貸したのが運の尽きよ! だがな、借金を踏み倒されやしないかと、気を揉み続けるのも今日で終わりだ。耳を揃えて、全額返済してもらおうじゃないか!」

「全額なんて無理です……。どうかお願いです、これまでどおり分割支払いの期日まで待ってください。お願いします……!」

「はぁー……。しつこい女だな」


グリードは芝居がかった溜息を吐いた。


「じゃあこうしよう。そこまで言うなら、まずはそれ相応の誠意を見せてもらおうか?」

「誠意、ですか?」

「そうだよ。金がねぇなら、別の方法で支払えってことだ。たとえば……」


リリィの豊満な胸の膨らみは、優美なラインを描くようにお仕着せを圧迫している。

グリードはその部分を執拗に見つめながら、下品な舌なめずりをした。


「……っ!」


卑劣な視線の意図を悟ったリリィは、怯えた表情で自分の体を抱きしめた。


まったく最低な男だ。

クズの中のクズという表現がぴったりである。

たしかにこちらは借金をしている側だが、一度も支払いを怠ったことはない。

家中の家具を売って必死に金を工面し、時には食事を減らしてまで支払いを優先してきたのだ。

それに、返済を分割してもらううえで、驚くほど法外な利息を払うという不当な条件を飲まされていた。

正式な契約書も交わしているのだから、利息を受け取っておきながら、突然、全額支払えというのは無茶苦茶がすぎる。

そんな理不尽な要求は、契約違反以外の何物でもない。


(まあ、理屈が通じない相手だから、何を言っても仕方がないのだが……)


こういう輩は、力以外の言葉を理解しないのだろう。


そう考えながら、ノクスはゆっくりとグリードに近づいていった。

ノクスの歩みは静かだったが、覚悟を決めた彼の存在感は圧倒的で、それがグリードの注意を引きつけた。


ノクスの姿を認めたグリードは、腕を組んでふんぞり返った。

グリードの目には、歪んだ優越感が浮かんでいる。


「ああ、これはこれは没落貴族様。あんたのことは相変わらず、王都中で噂になってるぜ。『かつての栄光は地に落ち、借金まみれ。首を括るのも時間の問題』ってなぁ!」

「へえ」


ノクスは薄く笑った。

彼の心には悲しみも怒りも宿っていない。

ただ、幾度となく同じ場面を経験してきた者だけが持ち得る諦観と、新たな決意が胸の内で混ざり合っていた。


かつてのノクスは、いかなる困難に直面しようとも、貴族としての誇り高き精神だけは守り通すべきだと考えていた。

それこそが、亡き父の遺志と家名の誇りに応える唯一の道だと、深く信じていたのだ。


そのため、どれほど理不尽な取り立てであろうとも、ただひたすらに耐え忍んだ。

怒号を浴びせられ、暴力を振るわれても、決してやり返すことはなかった。


もし一度でも暴力で応じてしまえば、世間が抱く「粗暴で横暴な貴族」というイメージを、さらに強めることになってしまう。

そのような事態は、何としても避けなければならなかった。


しかも、ループ序盤の頃のノクスは、純粋な希望を胸に抱いていた。


『必ずや誰かが味方をしてくれるはず』

『いつか必ず、真実は人々の心に届くはず』


そう思っていたのである。

しかし、その希望的観測は、幾度も繰り返される時の流れの中で、徐々に砕かれていった。


そんなノクスが、完全に開き直るまで、100回ものやり直しを要した最大の理由は、恐怖にあった。


ノクスは、5回目のループの際、グリードに反論した結果、刺殺されてしまった。

グリードは腰に隠し持っていた鋭いナイフを怒りに任せて抜き放つと、ノクスの腹を容赦なく何十回も刺し貫いたのだ。


あの時の鋭い痛みと、冷たい石畳に滲み出る温かい血の感触は、幾度転生を重ねても鮮明に記憶に刻まれ続けた。


この痛ましい経験のせいで、ノクスはグリードに対し、本能的な恐怖を抱くようになった。

あの死以来、グリードの姿を目にするたびに体が震えた。


だが、今回は違った。

これまでのように怯えて逃げ出したい衝動など、微塵も感じない。

どのような結末を迎えようとも構わないという覚悟が、ノクスの心に新たな強さを与えていた。

威圧的な態度で迫るグリードの目の前に立ちながらも、ノクスの体は今、一切震えていなかった。


開き直った人間ほど、恐ろしいものはない。

ノクスはうっすらと微笑んだまま、ジャケットのポケットから、カビの生えた黒パンを取り出した。

朝食の席から持ってきたそれは、緑色の斑点が表面を覆い、石のように硬くなっている。


「うちの特産品だ。屋敷の地下室で特別に培養した貴重なカビまで付いている。さぁ、グリード。一口どうぞ」

「は? 何を言って――」

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