脱出
Bチームと合流したサラ達は、状況の報告を行った。
「嘘じゃないんだな?」
「こんな嘘つくと思うか?」
ジャックはレミーに確認した。2人が死んだことが信じられないのだろう。
「お前ら、酸素はあとどれくらい持つ?」
レミーとアレックスは約40分、サラは30分ちょっとだ。スナーシャは30分ももたない。Bチームと合流するまでも、呼吸が整えられなかった。
また呼吸が乱れる前に、アレックスがスナーシャに声をかけている。
Bチームは潜水艦から出て、1時間も経っていないため余裕があった。
「レミー、これからどうする?」
「上がることは不可能...地上と通信しようにも潜水艦がないから電波が弱すぎて届かない...」
全員の顔に絶望感が漂う。
「みんな、聞いて。」
サラの方を全員が見た。
「確率の低い賭けだけど、この遺跡を調査しよう!」
ありえないと言うようにジャックが呆れた表情を見せる。
「お前な!好奇心に心飲まれんのもいいけど、今は脱出が最優先事項だろ!」
「聞いて!脱出するために調査するの!ここの遺跡は、おそらく地上に今はない技術で建設されている。もしかすると脱出のヒントがあるかもしれないでしょ!」
「古くて読めない文字と絵でどうやって地上に戻るんだ?そうだ、絵で潜水艦書いてくれよ。それで帰ろうぜ。」
「あのね...通信できない、潜水艦がない、水深6000mにいるのよ?こんな絶望的状況ならできることを探すのが普通でしょ!」
ジャックはサラの勢いに押された。
「確かにな、よし!AチームとBチームで別れて調査だ。」
「クソ!無線は常に繋げとけ、ちょっとした情報でも全員で共有するぞ。」
レミーが決定したことで渋々ジャックは賛成した。
スナーシャはBチームに加わり、レミーとアレックス、サラでさらに2手に別れて調査を続けた。
Aチームは遺跡の南側へと向かった。壁画には人が多く描かれ、踊って頭を下げてあの怪物を崇拝しているように描かれていた。
「あの怪物は神か?」
「レミー、それは多分違うよ。こっちの壁画には逃げようとしている人達も描かれているから、おそらく人間は襲われていたんじゃないかな?」
アレックスは冷静に分析していた。いや、冷静を装っているのだろう。脱出の可能性が全く見えない状況で、冷静になるなんて無理な話だ。
『こちらBチーム、少し可能性が見えたぞ。』
「ジャック!何が見つかった!」
『おそらく生贄を送ってたんだろうな。人間が度々運ばれていたらしい。円盤の乗り物に乗った人間の絵があるぞ。』
「これに賭けるしかないか...了解だ、円盤を探しながら調査を続けるぞ。」
調査を続けると、遺跡には祭壇があり、サラたちが調査をしていた方は、怪物に生贄を捧げるために用意されたような部屋ばかりだった。
Bチームの方に手がかりが多く、サラたちは残りの酸素を考えBチーム側に絞ることにした。
「サラ、アレックス。残りの酸素は?」
「私はもう20分ももたない。」
「僕もです。」
サラたちは地上まで上がるための酸素量まで考えると、もはや絶望状態だ。
アレックスは諦めている様子だ。
『聞こえるか!Aチーム!』
無線からジャックの声が聞こえてきた。
「こちらAチームのサラ!どうしたの?」
『驚くなよ!円盤を見つけた!しかもこの大きさなら全員乗れるぞ!廊下を進むと外に出られる、そこから見える崖まで来い!急げよ!』
希望が見えた気がした。サラたちは呼吸を整えながら走った。
崖まで着き、下をのぞき込むとそこには円盤があり、周りには潜水艦から出した光源が散らばっており、周りの様子がはっきりとわかった。
円盤はサラたちのいた場所から6、7m下にあった。さらに崖は下に続き、底が見えない。円盤は飲まれそうなほど暗い底に落ちそうになっていた。
「見ろよ!今ロビンが動くか見ているんだ!ロジーは周りを見張ってる。」
「動けば希望が見えるぞ...」
全員の緊張が少し緩んでいた。
「なんか、変な音しない?」
スナーシャの発言でその場にいた全員が気づいた。
ガチガチという音が聞こえ、徐々に大きくなっている。
「何この音...」
「下だー!ロビン、早く動かせ!」
ジャックの声に真っ先に反射したレミーが光源を下に投げた。
「な、なんだ...これ....」
サラは覗きこんだ。
レミーが投げた光源に照らされ下の様子が薄らと見え始めた。「脱出できない」そう確信付けるものがそこにはあった。
「いやー!!!!」
スナーシャの悲鳴がサラの耳を痛めた。叫びたくなる気持ちも分かる。
下にいたのは数え切れないほどの怪物だった。目を見開き瞳孔が開いている。ガチガチという音は、怪物が歯を鳴らしている音だった。怪物は上を見上げ、なぜかその場でガチガチと歯を鳴らしているだけだ。
怪物は肩甲骨のあたりから2本の腕が生えていた。人間のような見た目だが、4本の腕を持ち巨大な目を持った怪物だ。
突然、機械音と共に円盤に明かりがついた。
「みんな動くよ!乗って!」
ロビンの声に1番近くにいたスナーシャが乗り、レミーが続く。
サラも続いて乗ろうとした時、円盤の隣に巨大な腕が降りてきた。上を見上げると、潜水艦を襲った怪物がにやけ顔で見下ろしていた。
「ロジー!!!」
ジャックは怪物を見ながら叫んだ。サラも怪物の顔を見ると、歯に足が挟まっていた。
「ジャック乗って!」
「先にここから離れろ!ロジーはな、俺の顔に傷をつけた時から兄弟も同然だった!」
遺跡の祭壇から持ってきていたのか、槍のような形をした棒を持った。
「サラ行け!俺はまだ酸素に余裕がある。後で迎えに来い!」
「戻ったらその偉そうな口の利き方直させてやるから!」
サラは円盤に乗り、運転席に向かった。運転席に座り、とりあえずボタンを押した。
「サラ、操作できる?」
「分からない、スナーシャ!中の水を抜かなきゃ!」
「わかった!」
スナーシャは辺りを見て周り、とりあえずボタンを押し始めた。
「これだ!」
スナーシャが押したボタンのおかげで、円盤内の水が排出され始めた。
「これヘルメット取って大丈夫なの?」
「まだ酸素タンクがこの円盤残ってるみたい!外しても大丈夫だよ!」
2人はヘルメットを取った。
「動くよ!」
サラはレバーを押した。ものすごい音と共に円盤は上に上がり始めた。
「サラ!!」
「大丈夫よ!しっかり捕まって!」
凄まじいスピードで、まるでロケットのようだ。
どれくらい経っただろうか、外が少しづつ明るくなっている。
「捕まって!」
ものすごい衝撃と共に地上へ出た。雲で弱くなった太陽の光が、しばらくサラの目を開けさせなかった。
「スナーシャ!大丈夫?地上に出たよ!」
床に倒れたスナーシャに駆け寄った。しかしスナーシャは、肩に置かれた手を弾いた。
「なんてことを....」
「仕方ないの、ジャックは後でまた助けに行く。」
「違う...なんで...なんで、ロビンとレミーを"置いてきた"の!!」
「え?」
2人は先に乗った。確かに今姿は見えないが、確実に先に乗った。どこかこの円盤内にいるはずだ。
突然、円盤の入口が開き、数人の男がボートから移ってきた。
「サラ!大丈夫か?よく上がってこられたな。潜水艦の救難信号が突然消えたんだ。何があった?」
乗ってきたのは研究所に雇われている警備の人達だった。
研究所へ戻り、サラは事情をみんなに話した。その最中もスナーシャはサラを睨んでいた。
「なあ、他の奴らはどうなった?」
「全員死んだよ!その女がレミーとロビンを見捨てた!」
「スナーシャが言ってることは本当か?教えてくれサラ。」
「わ、分からない!私の前に2人は乗ってた!だから動いたのに...」
頭がぼんやりとして混乱している。先に乗ってたのかも曖昧になってきていた。
研究所全体に突然警報がなり、女性が入ってきた。
「どこかで大規模な地震が起きているかもしれません!高い波が来ます!」
「震源地はどこだ!」
男の後に続いてサラもついて行った。
「震源地はどこなんだ?」
「分かりません!」
「これ、地震じゃない!」
「サラ、どういうことだ?」
窓から外を見ると、海の中から白く細長いものが次々と見え始めた。
海から無数に出てきたのは、怪物の腕だった。




