6:騎士団に入りたい。
日々の読書と健康維持程度の運動。それに加えて発音の練習も行った。初めのころは歌っていたのだが、音楽の才能はなかったらしく、乳母や侍女たちに頼むから止めてくれと泣き付かれたので歌は封印した。
母は私が歌うと楽しそうに笑うので、母の前だけでは歌うことにした。歌は気分が明るくなるから好きだ。
「母上、楽しそうなところすまないが、またあの男との会話の場を設けてほしい」
「いいわよ? 今度は何を話すの?」
母は私がライゼガング侯爵のことを『あの男』と言うことを気にしなくなったようなので、堂々とそう呼ばせてもらっている。
血縁上は父にはなったが、絶命する瞬間のことはまだ忘れられないので、父と呼ぶのがとてつもなく気持ち悪いのだ。
「そろそろ家を出ようかと思っている」
「…………ニコラウス、貴方まだ五歳よ?」
「あぁ。母上には本当に世話になった。だが、そろそろ外の世界も見てみたい」
「……そう。貴方も私をここに置いていくのね」
「母上……?」
一瞬暗い顔になった母だが、すぐに笑顔を取り戻して父との会話の場を設定すると言ってくれた。
笑顔が明らかに張り付けたもので、感情が乗っていなかったのがとても気になったのだが、聞いても答えてはくれなかった。
「話があると聞いたが?」
「はい」
今回、あの男の執務室には一人で行くようにと言われた。母が何を思っているのか理解したいが、週に数度しか会わないので、五年経ったいまでもよく掴めないでいる。
「騎士団に入団しようと思いましゅ」
「お前はまだ五歳だが?」
「そうですね。ですが、騎士団の受け入れ条件に、年齢の指定はなかってゃかと」
「なかろうが、常識的な年齢までは待て」
今世を最大限に活かすための計画は、呆れ顔のライゼガング侯爵に却下されたので、新たな計画を立て直すかと考えていると、ライゼガング侯爵が大きなため息を吐いた。
「そもそも、お前は本ばかり読んでいると聞いたが」
「はい。幼い内から身体を鍛えると、身長があまり伸びないという医学ちょを読みましたので、今までは控えておりました」
「…………いろいろと意味が分からん。が、とりあえず……そろそろ身体を鍛えたいんだな?」
「まぁ、そうですね」
ライゼガング侯爵が再び大きな溜め息を吐きながら、剣の師を付けてやると約束してくれた。思ったより話せる男なのだな。それとも、息子だから甘いのか?