14:歪み
クヌートの執務室のソファに寝転がる。私が使っていたころから替えていないらしく、慣れ親しんだフィット感がたまらない。
「にぃ……ニコラウス、今日は休みじゃないでしょ?」
使用人や文官たちがいるので『兄さん』と言うのをギリギリで堪えたらしい。変な喋り出しにはなっていたが。
「あぁ。少し考えたくてな、午後半休をもらった。勝手にだが」
「もぅ。怒られるよ?」
「構わんさ」
クヌートには気にせず執務をしろと言いつつ、懐かしい執務風景を眺める。
近衛騎士たちも執務室内にいて、何だかんだと楽しく話しながら執務をしていた。私は、この風景が当たり前だと思っていたが、外では違ったらしい。
部下をいびる上の者たち。
侍女でも文官でも、騎士でさえも、そういった者がどこにでもいるのは知っている。ただ、上長はそれを諌める立場にあると思っていた。
「この部屋は居心地がいいな」
「そのソファお気に入りだったもんね」
「ふはっ! そういうことじゃないが、まぁ気に入っていたな」
幼いクヌートが執務室に遊びに来ていたころを思い出す。いまは立場が逆転しているが、あのころと変わらない。
もしかしたら、ここがあまり変わらないように、外に蔓延る歪さも変わっていないのかもしれない。私が知らなかっただけで。そう呟くと、クヌートから表情が少し抜け落ちた。
「……人払いを」
クヌートの低い声に、執務室にいた者たちが静かに素早く去っていく。
少し、驚いた。たった一言で人を動かすクヌートにも、それに慣れた様子で去る者たちにも。
「兄さん、王城内は酷く変わったよ。兄さんがいなくなって…………どんどんと歪んでいっているんだ」
クヌートの悔しそうな声が、しんと静まり返っていた執務室に響いた。
「議会の全員が、兄さんが毒殺されたことを知っている。両陛下も。僕を…………王太子にするためだった気がするんだ。だって……兄さんが殺されたその日に、議会で可決されたんだよ? しかも『これで陛下の治世は安泰ですな』なんて笑って。変だよ……」
あぁ、そうか。何かが可怪しいと思っていた。
幼い頃は、両陛下ともほとんど顔を合わせていなかった。乳母に任せきりで、公務のときだけ会える人という認識だった。だが、愛されていたとは思うが、愛されていたと思いたいだけだったのかもしれない。
王太子として執務室を与えられたが、あまりやることはなかった。しばらくして自分で仕事を見つけ色々とやり始めたら、陛下から様々な執務を任されるようになった。その際に気付いた書類の不備などもついでに指摘していた。
そして、明らかな不正については陛下に確認後、議会で問題提起し不正者を糾弾していたが…………私は踏み込み過ぎたのだろうな。愚直に。
死ぬ直前、あの男とした会話を思い出した――――。




