13:騎士団に入団して。
家を出て騎士団に入団する日、玄関先でライゼガング侯爵と母に見送られた。
「いつでも帰ってきていいのよ?」
「うむ。ところでお母様、あの男と喧嘩したのか?」
少し離れた場所にいたライゼガング侯爵を横目で見つつ声を落として聞くと、母がわかりやすいほどに頬を膨らませていた。
妙にギクシャクとしているなと思ったら、どうやらガッツリ喧嘩したらしい。いつの間にだろうか。全く気付かなかった。まぁ、仲を取り持つ気は一ミリもないので知ったところでなのだが、母はあの男の弱みだからな。ネタとして使いようはある。
「喧嘩するのは構わないが、ストレスを溜めないようにな? もう無理だとなる前に逃げろよ? 私が全力で保護するからな?」
「っ、子どものくせにっ」
母がギュムッと抱きしめてきた。そして、穏やかな声でありがとうと囁いたあと、抱擁を解いた。母は、なにやら覚悟を決めたような表情で微笑んでいた。
女性は強い。母も強い。だからこそ、何をするのか分からないところがある。
本来の母は、夫や子どもから守られるような弱い立場にいて満足する人ではないはずだ。それを抑え込んで我慢しているのは、やはりあの男に理由があるのだろうなと思う。
そこまでして愛されているあの男が、少しだけ羨ましくも思えた。
騎士団に入団して数ヵ月。見習いの仕事はかなり多く、久しぶりに心身ともに疲労というものを感じていた。
早朝から食堂の手伝い、洗濯の手伝い、訓練に使う道具の準備や後片付けとメンテナンス。その間で騎士に必要な知識を学ぶ座学。夕方になると、夕食後の皿洗いの手伝いと風呂の準備と後片付け。寝るのはいつも真夜中を過ぎたころ。
私は前世の執務で長時間労働には多少慣れているが、今までは裕福な暮らしをしていた子息たちがそんなハードワークに耐えられるはずもなく、寝込む者やサボる者、逃げ出す者も現れていた。
聞くところによると、そうやってふるいに掛けているのだとか。
本当にそうか? ただの雑用にしていないか? と思えなくもない。特に道具のメンテナンス、洗濯や皿洗いなんかも専門の者がいるのになぜ見習いの騎士にさせるのだろうか。
「そうやって文句を垂れるだけなのなら、出ていけ。お前の代わりなど何人もいる」
団長に直談判に行ったが、キレ散らかされただけだった。なるほどこれは予想外だった。
前世の時から団長は彼だったが、思慮深く話の通じる男だったのだ。理由を述べて頼めば考慮してくれる。出来ないときは出来ない理由も教えてくれる。
今回のような申し出ならば、末端の者のことも気にかけてくれるような男だったのだ。
「そうか。邪魔したな」
団長室を出る間際、コネで入り込んだ無能なガキだとか、出来る仕事などないくせに口だけは一丁前だとか、王太子に泣きついて可愛がってもらえとか、そういった野次が団長室にいた騎士たちから飛んできた。そして、それを聞いた団長も楽しそうに嗤っていた。
「…………なるほど、それはとても良い案だな。午後は休ませてもらう」
「「は?」」
「使えるコネは使う派でな。クヌートに泣きついてみるかな」
振り返りそう言うと、団長含め騎士たちは顔面蒼白になっていた。慌てるくらいなら言わなければいいだろうにと思いつつ、騎士たちの質の低下は以前からなのか最近なのかが気にはなった。




