10:弟に約束させる。
「そうもバレバレな態度だと、敵対していると気付かれるぞ? あの男は狡猾だ。容易には落――――」
「にゅあぁぁ! アルブレヒト様ったらこんなに可愛くなっちゃってぇ!」
「レベッカ、煩い」
感情がモロバレなクヌートを注意していたら、レベッカが抱きついて頬ずりしてきた。レベッカの顔面を鷲掴みにして引き剥がしていると、クヌートがボロボロと泣き出してしまった。
「兄さんなの……?」
「ソレは死んだろうが」
「でも、兄さんなんでしょ?」
「どうだかな」
堂々と話しかけていた私が一番の原因だが、クヌートもレベッカもチョロすぎやしないだろうか?
これが演技だったどうする気だ。簡単に国家転覆も出来そうな気がしてきたぞ? いかん、本気で心配になってきた。
「とりあえず、クヌートは伯爵家の娘……名前はなんだったか…………アレに告白でもしてこい」
「うん!」
「レベッカは離れろ」
「嫌です! アルブレヒト様照れてかわいい!」
「照れてない。あとニコラウスと呼べ」
「はいっ!」
ところで……と言葉を切り、気になっていたことを確認する。
王太子の死は、公的には突然の病死とされていたが、クヌートは何か知っていたり、気付いているのだろうか? ハイデガー卿の反応からしても、ほとんどの貴族が病死だと思い込んでいそうだったのだが。
「第一発見者は私なんです」
クヌートが下唇を噛み、俯いて膝の上の手を見つめた。両手が震えているが、恐怖や悲しみというより、怒りのようにも見える。
「そうか。嫌なものを見せたな」
私が座っていたところからはクヌートが遠かったので、ガゼボのベンチから降りてクヌートの横に立った。母の温かな手を思い出しながらクヌートの頭を撫でてやると、ポロポロと涙を流し始めてしまった。
「お……おい?」
「誰に掛け合っても……病死にするとしか答えてはもらえなかったんだ」
その『誰に』には、両陛下も含まれていたのだという。
「……そうか」
「兄さん、犯人はライゼガング侯爵なんだよね?」
「…………」
「兄さんっ!」
クヌートが悲痛な声を上げて縋ってくるが、私は頭を撫でてやることしか出来なかった。
両陛下が内々での処理に賛成したということは、何かしらの思惑があるのだろう。当初から犯人を知っていて、諸々を天秤にかけたのかもしれない。
死に際に見たあの男の顔とセリフも気になっている。面と向かって聞いてもいいのだろうが、いまはまだ時期尚早だろう。
「クヌート」
「なに?」
「私を騎士に登用しろ」
「いいよ。なにするの?」
クヌートよ……お前は本当に私に甘い。そして、従順すぎる。そのくせ王太子としての執務は卒なくこなし、統率者としての才能を遺憾無く発揮している。
「お前が王太子になってくれて、本当に良かったよ」
クヌートはいじけたように怒っていたが、レベッカはニヤニヤと笑っていた。そして後ろから私の腰に腕を巻きつけて抱き上げると「貴方は国のために馬車馬の如く働きなさい。アルブレヒト様は私が幸せにします!」とかなんとかのたまっていた。
ニコラウスだと言っているのに、人の話を聞かない女だな。




