嫉妬心の先にあるもの3
翌日の放課後。
俺は四十万円という大金の入った封筒を持って近所の公園を目指していた。
相手方からのダイレクトメッセージの内容はこうだった。
『十倍。0の数を一つ間違って送金をしてしまいました。つきましては迷惑料として十万円お支払い致しますので、残りのお金に関しましては返金頂けないでしょうか?』
すぐに返信をした。
もし何かの間違いで訴えられたりでもしたりしても嫌だなと思って指示に従う事にしたのだ。
『了解です。このまま振り込み口座に返金すればいいでしょうか』
『いえ。こちらの手違いで手数料を払って頂くのも申し訳ないので、貴方様の近くまで取りに伺います。〇〇公園に夕方四時頃なんていかがでしょう?スーツ姿で伺います。こちらから声をおかけします』
『わかりました。それでかまいませんよ』
『かしこまりました。本当にご迷惑をおかけしました』
『いえいえ。とんでもないです』
敢えて金額については触れなかったのだけれど。相手方からの返信で、金額というか、投稿についての注意点を挙げられた。
『皆様にお振込みしている金額と齟齬が発生してしまいますので、振り込み確認の投稿は、五万円振り込まれた!でお願いします。投稿する際はこちらの画像をお使いください』
添付されていた画像は、見ず知らずの通帳で、五万円きっかりが振り込まれた事が一目でわかる画像だった。
『わかりました』
そう返信を返した直後、すぐに投稿をした。
『ヤバい本当に五万円もらえた!ありがとうございました!』
本当は十万円だけどな、と同一の内容で投稿している他者を見て、少し優越感を覚えた。
昨日の回想をしながら歩いていると、近所の小さな公園にたどり着いた。
訪れるのはかなり久しぶりの事だった。
小さな頃に遊んだ事もある公園で、あの頃は大きく感じた金網もに囲まれた公園も、かなりちっぽけな物に思えた。
近頃ではサッカーや野球を禁止されている事から遊んでいる子供達の姿はない。
自分以外に人の姿はないし、ベンチに座って待つことにした。
誰もいない公園だからか、そうでなくてもかしれないが、ニヤニヤが止められない。
今後の展開を考えるだけで抑えられなかった。
きっと、十万円もあれば、推しにも認識してもらえるんじゃないか。
いや、それ以上の展開が待ち受けているんじゃないのか?繋がれるかもしれない。そう考えるだけで気分は高揚した。
少額で少しづつってのも味気ないから、ドカッの一万円くらい一気に行ってしまおうか。
それでもまだ九万円もある。
うん。そうしよう。最初の投げ銭は一万円だ。
そう決めて意味もなく立ち上がった所で、声をかけられた。
「いやー。悪かったね。こちらの不手際で」
俺に声をかけてきたのは、いかにもチャラそうなイメージを覚える二十代の男。
ホストとかしてそうなイメージの男。
男は軽薄そうな笑みを浮かべでペコリと会釈をした。
「い、いえ。これです」
自分が苦手なタイプであったこともあり、お礼を告げるわけでもなく、封筒だけを突き付けた。
すると、男は封筒を受け取り、「じゃあ」と軽い感じで去っていった。
男は公園の入り口付近に立つと、懐に封筒をしまい、スマホを取り出して、何やら操作をしていた。
男の立つ方向にしか出入り口がない、小さな公園だ。
もう二度と会うこともないだろうが、苦手意識を持ってしまったから、男が去るのを待った。
五分ほど、男はスマホを操作して、去り際にコチラに振り返り、ペコリと頭を下げた。
俺もつられて会釈を返した。
さて、俺も帰ろう。
今日、推しの配信はないけれど、明日投げ銭をするために全力で準備をしなければならない。