嫉妬心の先にあるもの2
あれから三日、振り込むと約束したのにも関わらず、振り込まれる事は一切なかった。
毎日朝昼夕と残高確認をして、そのたびに肩を落とし、同時に怒りも覚えた。
謝罪の連絡が来ることもなかった。
俺は騙されたんだ。
あのアカウントの売名の為に。
この怒りをどう晴らすべきか。
しかし、今は推し活を優先すべきだ。
今日は推しの配信がある。
投げ銭はできないにしても、認識をされる為には必ず挨拶はしなければならない。
これは自分に課したルールだ。最古参としてのプライドもある。
タブレットを開き、推しの配信を見始めると、すっかりと怒りは収まっていた。
不思議な物だ。推しを摂取すると精神状態も安定するのだ。
推しが尊くて辛い。まさにそんな状況だ。
推しが俺の全て。推しが俺の人生。
『こんばんわ』
俺の書いたコメントは華麗にスルーされた。
その代わりに高額投げ銭を意味する、赤い文字には推しも反応をしてコメントを返してくれる。
同接が多すぎて、一般コメントじゃ流れるのが早すぎて、認識すらされない。
ギリギリと爪を噛みながら、SNSでやり取りした人物を呪った。
今日振り込まれていれば、今頃俺は、一番の投げ銭額で注目されていたに違いないのに。
この配信が終わったら、あの詐欺アカウントを晒す。
そう心に決めて1時間半後。推しの配信が終わった。
同時に引用して晒し上げてやろう。そう思った所でダイレクトメッセージが届いた。
『お金を振り込みました。しかし、こちらの不手際がありまして────』
最後までしっかりと読まなかった。
振り込まれた事を確認するために、財布を持ってすぐに部屋をでた。
ここ最近毎日のように口座の中を確認していたからキャッシュカードもしっかり入っている。
父さんにはコンビニに行くとだけ言い残し、徒歩五分のコンビニまで走った。
日頃の運動不足がたたって、徒歩五分の所、走って五分で到着した。
コンビニに到着して、一番奥のATMにむかうと、利用客が一人とその後ろに二人並んでいた。
あーもう。早くしろよ。
確認したいことがあるだけなんだよ。
一人目はすぐに利用が終わり、二人目もすぐにチャージが終わるが、三人目はかなりもたついていた。
スマホを耳にあてながらおばあちゃんは指示に従って画面を操作しているようだった。
ったく。そんな事も教えられなきゃ分からないくらいなら、先に俺に順番を譲って欲しかったね。
貧乏ゆすりが止まらずに十分ほど待つと、ようやくATMが空いた。
おばあちゃんは俺に頭を下げながら「ごめんね。またせちゃって」と謝罪をしていたけれど、思わず舌打ちがでてしまった。後悔も反省もしていない。
心の中では引き続き、謝るくらいなら先に譲れよ。そう思っていた。
流行る気持ちと、イライラを抑えながら、財布からキャッシュカードを取り出し、ATMに挿入すると、ヌルリと吸い込まれていった。
四桁の暗証番号を打ち込み、残高確認をタップする。
問い合わせの時間なのか十数秒ほどあって、画面が一瞬暗転してから残高が表示される。
「はっ!?」
思わず声がでてしまった。
何かあったのかと後ろに並んでいる人の視線が一斉にこちらをむいた。
すぐに取り引き終了を押して、キャッシュカードを払い出させると、店の外に出た。
深呼吸をしてからもう一度表示されていた下桁の数を頭の中で数える。
一万円単位なら下桁は四つのはずだが、間違いなく、下桁が五桁あった。
頭の数字は5でその後ろに数字が五つ並んでいたのだ。
つまり、振り込まれていた金額は、約束の五万円ではなく、五十万円。
不意に沸いてきた大きな数字に頭が追いつかない。
なぜ?
一応確認すべきかもしれない。
スマホのスリープを解いて、SNSを開くと、新規でダイレクトメッセージが届いていた。
送り主は、現金を振り込んでくれると騙っていたあの人物。
少し嫌な予感を覚えつつ、ダイレクトメッセージを開いた。