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第二章、嫉妬心の先にあるもの1

 とても腹が立っていた。


 俺の方が彼女の事を理解しているし、コメントだってよく考えて投稿しているつもりだ。 


 それなのに彼女は答えてくれない。


 彼女が配信を始めた当時は俺と数人しかいなくてすぐにコメントが返ってきたのに、最近はおかしい。それもこれも悪いのはアイツラだ。  


 高額の投げ銭を投げた奴だけがコメント欄の上部に残り続け、コメント返しを貰えて、俺達みたいに小遣いが少ない学生のコメントはすぐに流れてしまう。


 最古参と言って良い俺のコメントが即座に流れるのはおかしい。

 憤りを感じていたけれど、どうしようもなかった。


 それがこの配信サイトの仕様なのだ。 


 カリカリと爪をかみながらどうしたら良いか考える。


 やはり、父さんに小遣いの増額を直談判するしかない。


 俺の方が彼女の事を知っているのに、こんなに愛しているのに、彼女の目にコメントが目にも止まらないのはおかしい。


 思い立ったらすぐに行動だと、父さんの部屋の扉をノックした。


「はい。どうぞ」


 返事があったからと、父さんの部屋の中に入ると、テーブルの上に置かれたノートパソコンを使い、何か作業をしているようだった。


 ノートパソコンを閉じてから、父さんは俺に向き合った。  



「どうした?」


「ちょっとお願いがあって来たんだ」


「なんだ?」


 父さんは物静かな人で、言葉数も少ない人だ。いつも簡潔に答えだけを求めてくる。


「小遣いの増額をお願いしたくて来たんだ」


「増額ね」


 父さんは眉間にシワを寄せ、あまり良くない反応を返してきた。

 父さんが怒るまえや、注意をする時に見せる行動だからだ。


 いつもの俺なら引き下がる所だけれど、今日の俺は引き下がらない。


「どうしてもやりたい事があってさ」  


「毎月一万円渡しているだろ?それじゃあ足りないのか?」


「……う、うん」


「そうか」


 父さんは一つ頷くと、顎に手を当てて、考えるようなポーズを取った。


 何も考えてないくせに、さっさと金をだせば良いんだよ。そう思っていた。

 クレジットカードを持ち出さないだけありがたく思えよ。

 心の中ではそう思っていた。


「次のテストで学年トップテンに入れたら、プラス一万円だそう。お金を得ると言うのは何かしらの対価が必要なんだ。今、お前はまだ学生だ。学生なら学生らしい対価を示してみなさい」


 そう言うと、父さんは閉じたノートパソコンを開き、作業を始めてしまった。


 もうこれで話は終わりだと言わんばかりに。


 まったく話にならない。


 俺の成績は知っているだろう。トップテンどころかケツから数えた方が早いくらいの順位だ。

 父さんの出した条件は拒絶に近いものだった。


 許せない。許せないが、耐えるしかなかった。


「わかった」


 なんとか怒りをおさえて、父さんの部屋を出た。


 すぐに自分の部屋に戻ると、布団を力いっぱいに殴った。

 殴っても手応えはなくて、夏掛けが虚しく宙を舞うだけだった。



 何か他の手を考えるしかない。


 スマホを取り出し、お金をすぐに得る方法を検索した。


 だけど、有益だと見られる情報はなかった。


 ノートを書けだの、アフィリエイト収入を得ろだの、今すぐにお金を得られそうなものではなかった。


 意味ないんだよ。今すぐに手に入らないと。

 今すぐに使えないと、意味がないんだよ!


 心の中で雄叫びをあげた。心の中で絶叫をした。



 父さんの財布からクレジットカードを抜こうかとも考えたけれど、慎重な父さんだ。暗証番号はきっと誰にもわからない物にしているだろう。


 何か他にないか……今すぐにお金が手に入る方法が。



 そんな事を考えながらSNSを巡回していると、とある書き込みを見つけた。



『お金に困っている人、すぐにお金を振り込みます。お一人五万円まで』


「これだ!」



 俺はすぐにその書き込みに返信をした。


 するとすぐに相手からダイレクトメッセージが送られてきた。


 相手が俺に聞いてきたのは住所だった。


 なぜ住所?


 疑問に思ったけれど、背に腹は代えられない。すぐに自分の住んでいる県、市を教えた。


 すぐに相手から返信が返ってきて、条件に合致したから、口座番号を教えるように言われた。


 俺は勇み足で口座番号を打ち込んだ。


 無我夢中だった。


 これで、愛するあの子にレスを貰える。


 その一心で書き殴った。


 相手から最後に来た返信にはこう書いてあった。


『振り込まれたらSNSでお礼をして欲しい。振り込み希望者がたくさんいるため順番になるから少し待って欲しい。二、三日以内には振り込みます』


 俺は『わかりました』と返信をして、スマホを閉じた。


 これで、あの子に振り向いて貰える。

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