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第一章、首が回らない1

 今日も朝からスマホの着信が鳴り止まない。


 マナーモードにしているし、バイブもオフにしているから周囲の人達の迷惑になる心配はない。


 電話に出ればいい。それは普通なら正しい事なのだけれど、僕には電話に出られない事情があった。


 僕の趣味は競馬に競艇、スロットにパチンコ。

 巷に溢れるギャンブルと名のつく物には大体手を出した。


 素人考えじゃあ最初のうちは勝つことはあっても、試行回数が増えれば負け続けた。


 連戦連敗で、介護職に勤めている給料ではお金が続くわけもなく、借りてはいけない所からお金を借りてしまったのだ。


 法に乗っ取った消費者金融、クレジットカード会社からは借りられる目一杯を借りて総額二百五十万。


 負けてからがギャンブルだと、逆転を狙って決して手を出しては行けない場所からニ十万円。


 総額で二百七十万まで膨れ上がってしまった。


 もう借りれるアテもなければ返せるアテもない。


 消費者金融と、クレジットカード会社の返済期日は何ヶ月もシカトしているし、今スマホを鳴らし続けている、決して手を出しては行けない金貸しの期限も昨日過ぎた。


 やはり黒い団体が後ろについている所は追い込みも厳しいらしい。


 念の為、家に張り込んでいるかもしれないから昨日は帰らなかったのは良かったのかもしれない。


 いったい僕はこれからどうなってしまうのだろうか?


 いっその事自己破産をしようか……


 もし自己破産できたとしても、それでも、この団体は僕の事を許してはくれないだろう。


 お金を借りた時に言われた言葉が脳裏をよぎる。


『どこに逃げたって、地の果てまで追いかけて、身を切り刻んででも回収するからな』


 半笑いだった。それが余計に恐怖心を煽ったが、あの時の俺は競馬で逆転するつもりだったから、適当に返事をしてマンションの一室を出た。



 今頃はもしかしたら職場に押しかけているかもしれない。


 いや、実家かも。


 そのどちらの連絡先、住所を契約書に買いたし、目の前で番号を表示させた上でスピーカーにして在席確認の為に電話をかけさせられた。


 あれが久々に聞いた母さんの声だったな。あの時はお金を借りられる高揚感が上回ってなんとも思わなかったけれど、今になって、情けなさ、やるせなさ、申し訳ないといった気持ちが湧き上がってくる。


 自らに対する怒りに任せて机を殴ろうかと拳を振り上げたけれど、机は殴らなかった。


 ちょうどその時に、スマホにショートメールが届いたのだ。


 不思議な事に同時に昨日から鳴り止まなかった着信も収まった。


 恐る恐るショートメールを確認すると、ずっと電話をかけ続けてきていた電話番号から送信されたものだった。


メールの内容は簡潔に一言だけ。


『取引がしたい』


いったいどういう意味なのかよくわからなかった。


僕と取引をするってどういう話をするつもりなのだろうか?


三十七歳。独身。これと言った病歴はなし。


腎臓を売るとかそういう話だろうか?


そうであったしても、ありがたく感じた。

それで済むなら腎臓を差し出そう。そう思った。


すぐに滞在していた満喫に外出をする事を伝えて外に出ると、ショートメールの送り主に電話をかけた。


「あい。お前いい度胸してんな俺から逃げようだなんてよ」


「す、すいません」


やはりかなり怒っている様子だ。もしかしたら、僕の事を誘い出す為の罠だったのかもしれない。



「まあ、いいよ。たしかお前、介護施設で働いてるんだったよな?」


「は、はい。確かに介護関係で働いています。もうクビになってしまうかもしれませんが」


 なんせ今日、借金取りから逃げるために仕事をサボったのだ。

一件も電話が、かかってこない所を見ると、もう見限られたと見るのが妥当だろう。


普段からどんくさくてよく怒られていたから、それも仕方がないかな。


「クビだあ?それは困るなあ。お前にはやってもらいたい仕事があるんだ」



「しごと……ですか?」



「ああ仕事だ。ちょっと施設から持ち出して欲しい物があってな」


「ぬ、盗みですか……それはちょっと……」


「踏み倒そうとしてるヤツがごちゃごちゃ抜かすなや!今地面踏んで、お天道さま拝めてるのも俺が寛大だからだ!理解しているか!?あぁ!」


電話の向こうの男の表情はわからない。

だけどかなり息が荒くなっていた。

断ればどうなるかわからない。

そう思った。


「わ、わかりました。なんでもやります!」


「おう。最初からそう言えば良いんだよ」


「それで、何を盗み出せばよろしいんでしょうか?」


「盗むなんて言うな。俺が欲しいのはコピーだ。あくまでもコピーであって現物は施設に残るんだから、盗みではない。だよな」



「そ、そうですね」



「そうだろ。お前がうまく持ち出せたら、お前に貸していた金はチャラにしてやる。どうだ?悪い条件じゃあないだろう?」



「ちゃ、チャラですか!?」


「ああ、あまりデカい声出すな!耳がキンキンするだろうがよ」


「す、すいません。借金がチャラってのは本当ですか?」



「なんだ?兄ちゃん。俺の事疑うのか?」


「い、いえ。そんなつもりじゃ……」


「まあいい。お互い話は簡潔な方が良いだろ?お前に持ち出して欲しいのは────」

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