5:元凶のいきさつ
「勝負だ、魔王! 【画竜点睛】の異名をその身に刻めー!」
道着を着た少年が正拳を放つが、俺はノーガードでそれを受ける。もっとも、『闇の暗雲』によりその拳は俺に届かない。
「うーん、まだまだだな」
「うおおお! すっごいなソーマ! ぜんっぜん攻撃通らんな! 魔王つえーっ!」
攻撃が当たらないのに、なえか少年は嬉しそうに飛び跳ねた。
立て続けに、「勝負!」と声をかけられる。
「次俺にやらせて! やらせて! 俺の【不運舞踏】なら……! ソーマ! 不幸と踊っちまいな!」
「俺の邪悪さには適わんな! 精進するがいい!」
しっかりと助走をつけた良い飛び蹴りだが、異名の神力がまったく籠っていない。それじゃあ先ほどの少年のように、容易く弾かれるだけだ。
「魔王つえー! きゃはははは!」
「ほっほっほ。儂の【画竜点睛】は若造とひと味違うぞ? 受けきれるかのう?」
次に現れたのは、ここの道場の師範おじいちゃん。
この人が相手なら、流石に一筋縄ではいかないだろう。いざ……!
「いや余裕だったわ! 老いぼれてる!」
「ほっほ……」
とぼとぼとしょげちゃった!
老いぼれって言ったのはごめん……。
ここは村で唯一の道場。俺も長らくお世話になった所だ。
今日は異名を持つ持たない関わらず、村の武芸者が全員集まって、【最終魔王】である俺に次々と攻撃を仕掛けてきていた。
そして最後に師範を退け、これで全員と戦い終えた。
……さて。そろそろ、行くか。
「それじゃ、みんな。俺行くわ」
最後はみんな、笑顔で拍手を送ってくれた。
身支度を整えて、村の出入り口まで赴くと、そこには既に、マリー・ベルと邪神が待ち構えていた。
「……ソーマ。お別れは済んだか?」
マリー・ベルの問いかけに、こくりと頷く。
邪神がニヤニヤと嫌味ったらしく口を開く。
「今生の別れになるかもしれんというのに、とうとう、一人も告白とかしてくる女子はおらんかったの。ケケケ。さてはお主、モテんな?」
何がそんなに面白いのか、ケラケラ笑う邪神にイラつく。バカにしやがって。
「これにて死出の旅路。未練なく逝けるのう! ケラケラケラ!」
「俺が死ぬときはお前の命日でもあるからな?」
「そう! だからこの村を離れるのはやめようというとるんじゃ! わざわざ敵地に乗り込もうなど、愚の骨頂! 全裸の美女がスラムを歩くようなもんじゃ! 打って出るのはこの村で地力を高めてからじゃ!」
途端に、邪神は打って変わって癇癪を起した。情緒不安定こわ……。
俺もマリー・ベルもドン引きなこともお構いなしに持論を展開していく。
「そうじゃ! この村の異名持ちをさっきみたいに鍛え上げて、手下にしよう! それから『試練のダンジョン』を魔改造して、難攻不落の邪悪なダンジョンに! そこの最奥でわれを祀り【裏ボス】として世界をこの手におさめるのだ!」
「はいはい。早く異名変更して、この腐った思想の邪神を滅したいよ」
「嫌じゃー!」
「てか、お前も誠心誠意謝れば許してもらえるんじゃないか? なんやかんや、世界征服、未遂だし。土下座でもして許しを請えよ」
「それはもっといやじゃー! 奴らに誤るくらいなら、死んだほうがマシじゃ!」
そんなことを言って、邪神は舌を嚙み切る素振りを見せつけてきた。
やめろやめろ! 俺まで死ぬって! 焦るわぁ……。
「物騒な奴だな……そんなに怒るくらいの、なにがあったんだ?」
そこまでされては、なんだか気になる。ただの酔狂でもないようだし。
邪神はまんまとこっちが話を聞く体制になっていることを確認すると、急に上から目線になりやがる。高圧的な態度になんないと会話できんのかこいつ……。
「いいじゃろう。教えてやろう、神界でなにがあったか……われが神々になにをされたか! 教えてやろう! しかと聞くがいい!」
「はいはい。どーぞ」
「優しいな、ソーマ……私はつい手が出そうだったぞ」
イライラしてるマリー・ベルもなだめて、邪神に話を促した。
「その前に、そういえば自己紹介がまだじゃったな! われは太陽と勝利の神ニケ! この世のありとあらゆるがわれを崇め勝利を誓い、太陽を信仰した! われは、次期主神として玉座につくはずだったのじゃ!」
唐突に名乗りだしたがこいつ、まさかの太陽神かよ。そんな奴が堕天すんな……。
しかも、神々の王として君臨するはずだったとか、相当上位の神だったというのも驚きだ。
……いや、話半分に聞こう。なんせこれは、邪神のたわごとだ。
話を何倍にも盛ってる可能性がある。
「じゃが! われを蹴落とし、その座についたのが……! ゼウス! 全知全能の神! われはもう悔しくて悔しくて……だから! われは決めたのじゃ!」
おおよそ神々がしていい笑い方じゃないイヤらしい顔つきで、邪神ニケは事の顛末を暴露する。
「地上にダンジョンを生み出し、その奥底に引きこもってやったんじゃ。ケケケ、そしたら神々め! われの抜けた穴がどれだけ大きいかようやく気づいて、必死に捜索を始めたのじゃ!」
ここで衝撃の新事実。
この世界に無数に存在するダンジョンは、こいつが造ったものらしい。
いや何やってんだ。さっきは世界征服未遂だから許してもらえるかもなんて軽く言ったが、今やこの世界はダンジョンから生まれたモンスターに日々苦しめられているんだぞ。
大戦犯じゃねえか……。
「ダミーのダンジョンを無数に用意したからの。人間共にも協力して貰って、ローラー作戦で見事にわれ発見した! ふはははは! あの時はどれほど待たせるつもりだったのか、小一年ばかし問い詰めたかったわ!」
ニケはダンジョン作成がどれほどの罪かなど気にも留めていないようで、意気揚々とまくし立てる。しかし、ここが奴のピークだったようだ。
話し声は次第に暗くなり、ふつふつと煮立つような怒りがこいつから感じ取れた。
「ようやくわれを主神に据える気になったか! と、思って神界に帰ってみれば……! 神々共め、われになんて言ったと思う!?」
「知るかよ」
『お前最近見なかったけど、なにやってたの? 今地上じゃダンジョンなんてものがいっぱい現れてお祭り状態だぜ? ダンジョン攻略した人間にはなぜか神々を呼び出すことができるから、人間と神々の距離がめっちゃ近くなって信仰心がより増したし、恩恵として異名を与えてやるとめっちゃ喜ぶんだよ! お前もやってみろよ!』
……誰の真似かわからないが、ニケは特徴的な口調でそう言うのだ。
そして、少し沈黙して……怒声炸裂。
「なんということじゃ! われのダミーのダンジョンがめっちゃ有意義に利用されとる! そればかりか、われを捜索していたわけではなかった! きー! 悔しい! その遊び実行したのわれじゃから! 主催者であるわれ抜きで今で遊び呆けおって! するいずるいずるい!」」
地団太を踏んでる奴初めて見た。
あと怒るとき「きー!」って言う奴……。
「……と、そんな功績をもって主神にしろと訴えてもはねのけられるし、嘘つき呼ばわりされる始末……本当なのに……! あのダンジョン造ったのわれなのに……!」
泣いて地面に伏すニケ。
そして、憎しみの炎を宿した瞳で、立ち上がる。
「だから! われは! 堕天した! こんな間違った世界は正さねばならん! ならんのじゃあーっ!!!」
はあ、はあ、と息を切らして、「決まった」と言わんばかりの達成感溢れる顔つきで天を見上げている。
こいつにとって、今の話は、拍手喝采モノの名演説だったのだろうな。
「……じゃ、行くか」
「ええ、そうね」
「ま、待たぬかー! こらー! われを敬えーっ!」
は? どこに敬われる要素が?
あーあ、旅の始まりに聞く話じゃなかったな……。このくだらなさが、俺の旅に反映されない事を願うばかりだ。