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3:VS最強の女

 白銀の鎧を身に纏う美女。マリーベル。赤みかかったくせ毛が、白銀の兜からちらと見えた。

 彼女は当然のように、腰に差す剣を抜き放つ。


 この国の武芸者のトップに君臨するのが四天王。

 その一角を相手に勝てる気がしないが、さらに相手は武器まで手にしている。

 当たり前だ。これは試合じゃない。

 世界の命運をかけた最終決戦だ。


 魔王と邪神を倒し、世界を救うというような、壮大な話なのだ。

 そして俺はここで最強の美女に斬り刻まれ、邪神の下僕としての不名誉を歴史に残すことになる……。


 ああ、既に眼前まで彼女が迫っている。まったく反応できなかった。

 俺の物語は、早くもここでさよならだ……。


「案ずるなソーマよ! 奴の攻撃など――貴様に届かん!」


 マリー・ベルの剣閃が俺を切り裂くその瞬間、余裕の笑みを浮かべる邪神が放ったその言葉は、まさしくその通りとなった。

 カキィン! 甲高い音と共に、彼女の剣身が真っ二つに砕けたのだった。

 なんと俺は無傷……!


「なっ!? 我が剣が通らないだと!?」


「ふっ! 堕天したわれの神力は、光を退く闇の暗雲! そして光の神力が強いほどより強度を増すのだ! 【斉天大聖モンキーダンス】おそるるに足らず!」


 ……先に言えよ、邪神め。一瞬、走馬灯が駆け巡った気がするぞ。

 だが、これは僥倖……! 相手が強いなら尚更、俺には有利ってわけか! なんせ、ダメージが通らないんだからな!

 一応、こいつも勝算なしに堕天したわけじゃないんだな。……無謀だとは思うが。


「……まあ、そういうことらしい。もう俺に攻撃が通用しないなら、ひとまずこの場はお開きに……」


「甘い! 甘いぞソーマよ! 今こそ強敵を簡単に蹴散らせる絶好のチャンスではないか! この娘を取り逃がすなどあり得ん! 殺してしまえーっ!」


「物騒過ぎて引くわ……いや、別に殺すことないだろ」


 それに、俺にダメージが通らないことと、俺の攻撃がマリー・ベルに当たるかどうかは、また別問題なわけで……。

 ダンジョンを単独攻略できる程度の武芸者VS国内最強の一角。

 飛車角落ちのハンデ戦だろうと、オッズは後者に偏るだろうよ。

 だからここは一時休戦がベター。そんな打算においての提案なのだが……。


「この私に……情けをかけるか! 侮辱するなよ魔王!」


 彼女は逆に焚きつけられていたのだった。

 情けはむしろかけてほしい側なんだが……。言っても聞かないよな……。

 遥かなる格上が、さらにやる気になりやがった。もう後には引けない。

 だったら俺も……窮鼠猫を噛んでやる!


「頑強な防壁を瓦解させる術というのは……既にこの身に宿してある! 『如意発勁』ッッ!」


 マリー・ベルは腰溜めに構えると、掌底でもって空を切った。

 瞬間、俺の腹部が弾けた……!?

 無様に吹き飛ばされて、しかしなんとか、体制を保つ。が、余りの衝撃に、耐えきれず、膝をついてしまった。


「ぐぅ! い、痛ってぇ!」


 なんだそりゃ、明らかに射程外から、掌底が飛んで来やがった!

 これが異名コードネームの神力か! すげぇな……!


「なんと!『闇の暗雲』を貫きおった! こりゃいかん! 帰れ帰れ! われらはもう店じまいじゃ!」


「ちょっと黙ってろバカ邪神! 向こうの攻撃が通るってんなら、俺も、遠慮なく正当防衛できるってもんだ!」


 状況によって手の平をコココロ変える邪神をしり目に、俺もようやく、手痛い一撃を受けたことで、気持ちが戦闘モードに入った。

 なんやかんや、これまで、彼女をどう説得すれば戦いを回避できるかなんて考えていたが……それはもうやめだ。


 俺の全力を、この最強にぶつけてやる!

 話はそれからだ!


「うおおおおおおおおっ! いくぞ四天王!」


 これまで培ってきた俺の武の全てを行使する!


「『如意発勁』を直撃してまだこれほど動けるとは凄まじい。武芸者として申し分なし! だが、惜しい! いささか型にはまりすぎだ!」


 俺の攻撃をかいくぐり、的確にカウンターを合わせてくる最強の美女。

 オートガードの『闇の暗雲』でなんとかダメージを抑えられているが、最初の剣閃ほど無効化しきれていない。彼女は既に、暗雲を攻略し始めていた。


 だからといって、俺は攻め続けることをやめない。

 守りに徹してしまえば勝機はない! くらえ渾身の正拳—―!


「焦ったな! その大振りを待っていたぞ魔王! 貰った!」


 嘘偽りのない、全身全霊の一撃だった。

 マリー・ベルは、そんな俺の勇みすぎてガラ空きの顔面に、先程の掌底をゼロ距離でぶっ放してくれた……。


 この一撃が、勝負の決め手となった。


「……貰ったと、思っただろ? 異名コードネームを手にしたばかりのせいぜい18歳程度のガキなんざ、どれだけ素質があろうと、実戦経験が浅く、道場拳法の域を出ない。ほらみろ、やはりそうだ。……そう思ったよな? 【斉天大聖モンキーダンス】!」


「な、なにっ! なぜ喋れ……いや、なぜ生きている! 【最終魔王ラスボス】!」


 マリー・ベルの掌底は必殺の一撃。まともに食らえば、比喩じゃなく首がもげる。

 そんな一撃を見誤ったからこそ、彼女は狼狽えた。

 ぺーぺーの俺なんかに防がれたからこそ、現状を理解できていなかった!


 ではなぜ俺は防ぐことができたか。

 なんてことはない。防御力を全て、顔面に集中させただけだ。

 邪神の神力である『闇の暗雲』をな!

 顔面をがら空きにしたのはわざとだよ!


「『闇の暗雲』! 防御に運用できるなら、攻撃もまたしかりだろ! それも『光の力が強いほどより強度を増す』んだから申し分ねえよなあー!」


 そして! 集中させた暗雲をそのまま、マリー・ベルに射出する!


「しまっ……!」


「喰らえ最強! 『暗雲球ブラックホール』――!」


 もはや漆黒の球体と化した暗雲は、マリー・ベルに吸い込まれるように彼女に直撃すると、全身に黒い稲妻を迸らせた――!


「きゃああああああああああああ!」


 マリー・ベルは、黒く焦げて、倒れ伏す。


「うむ。見事! ソーマの勝利じゃー! やったー! バンザーイ!」


「いやお前、何喜んでんだ。次はお前だ、お前」


「……は?」


 俺は今、最大級の攻撃手段を手にした。

 ――ちょっとくらい、うっ憤を晴らさせてもらってもいいだろ?


「『暗雲球ブラックホール』!!!」


「ぎゃあああばばばばばば! な、なにするかー! われが死んだらお主も道連れなんじゃからなー!?」


「ちっ、まだ気は済まねえが、いたしかたねえ……!」


 もちろん、自身の神力を受けて死ぬことはないだろうと高をくくっての攻撃だったが、思ったよりもダメージが通ったな。

 本当に、その見た目通りよわよわのガキで、また見た目通りに生意気な奴……。


 なんにせよ、マジで信じられないが……。

 俺の勝利だ!

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