噓の劔 草稿
噓の劔 草稿
ここは奥深い山々を通り抜ける、峠の壱本道。
どうどうと胸を張り歩く男がいた。
体脂肪率数パーセントにまで絞り上げられた、その見事な出で立ち。
細マッチョさんが峠を越え、最後の難関に差し掛かろうとしていました。
「おい! あいつなんでパン壱なんだ?」
「可哀想にな? 俺らみたいな追い剥ぎにあったんだろうな?」
「みるからに痛々しいよな? 可哀想だよな?」
「どうする? 見過ごすか? あのパン壱?」
「パン壱だろうがなかろうが、見過ごす訳にはいかねえな?」
「でも、パン壱何ですぜ? あの野郎?」
「ふん! 何度言わせんでい! パン壱だろうがな、パン壱で無かろうが俺っちの前を素通りはさせねえってことさ!」
「流石に頭はえげつねぇですぜ! あのパン壱野郎もこれ以上は取られるもんねえと胸張ってますもんね!」
「おい! そこの兄ちゃんよ! ちょほほ~いと待ちなはぁはあ!」
「何奴?」
「名乗るほどのもんじゃねえよ! 置いてくもん置いてとっとと失せな?」
「ふん! 貴様らのような輩に渡すとでも思っているのか?」
「威勢のいいこったな! 何をそんなに息巻いてやがんでえ?」
「そうだそうだ! 痛い目にあいたくなかったら素直に言うこときくんだな?」
「おっ……おのれ! 狙いはこの魔剣、噓の劔か? 良く分かったな? わたしが持参していると……?」
「頭? あいつやべえ奴ですぜ? パン壱で魔剣とかほざいてますけど?」
「あっしも関わっちゃいけない危険な香りがしてますが?」
「頭関わらない方がいいんじゃねぇですかね?」
「うるせえ! 腰抜けどもは引っ込んでな、 壱端男の子が口にしたことはな! 何人足りとも曲げられねえんだよ!」
「はあ……頭の拗らせはじまっちゃったよ?」
「いいだろう! その魔剣とやらを、ここに置いてってもらおうか?」
「くっ! な……何て事だ、これは魔都の鬼を斬る為、遠く西北の彼方へと出向き噓の国へと訪れ、噓の山々を巡り巡りして壱ヶ年、噓の玉鋼を探し出しそうらえど、どうするこも出来ず途方に暮れし時、水の精霊に教えられして、噓の清水に更に壱年漬け込んみて、あちこちとんかち駆け巡りたどり着きし嘘源郷噓、その腕利きの噓劔専属鍛冶師にトンチンカントンチンカンと打ち出され、噓の劔研師により幾年にも渡って何度も何度も研ぎ抜かれた逸品なるぞ! 貴様らなんぞに渡すはずはなかろう! 劔の錆びと消えたくなければさっさと立ち去るがやかろう!」
「長々長々のたまわりやがって! ふん! おれっちはな! 壱度狙ったもんは、必ず手に入れてんだよ!」
「そうだそうだ!」
「どんな手を使ってもな?」
「そうだそうだ! あの毛むくじゃらの腹黒さなんだぞ!」
「てめえらうるせえぞ!」
「すいやせん……」
「その魔剣とやらを置いてってもらおうか?」
「頭頭? 彼奴の口車に乗っちゃ駄目だすぜ! 彼奴は無壱文のパン壱なんですから!」
「うるせえ! 壱度はいた唾は飲み込めねえんだよ!」
「頭とやら? その言葉に噓偽りは無いのだな?」
「ああ! 御天道様に誓って嘘偽りはねえ!」
「そうだそうだ! 頭は嘘は言えねえストレートピュアハートなんだよ!」
「魔剣噓の劔を渡せば、ここを通してくれるんだな?」
「弐言はねえ! とっとと置いて何処へでもいきやがれ! とっつぁんぼうや!」
「そうか! では、はい! どうぞ! これ、うけとってね!」
「えっ……? そんな素直に躊躇せずに渡すのか?」
「早く! 早く! 早く受け取ってよ!」
「あっでも……どうやって?」
「お手々だして! 両手で受け取ってね!」
「あ……ああ? こうか……?」
「はい! どうぞ! 確かに渡したからね! 後から追いかけてきて、受け取ってないとか無しだかんね!」
「あ……ああ……」
「じゃっ! 通してもらうね? 文句ないよね? 行っていいよね? 魔剣噓の劔受けとったよね? 男の子に弐言はないよね?」
「ああ! 確かに魔剣噓の劔は受けとった! とっとと立ち去れ!」
ぺこり! と、綺麗な壱礼をして細マッチョさんはすたこらさっさ壱目散に駆けてゆきましたとさ。
「頭頭! まんまと壱杯喰わされましたね?」
「うるせえ!」




