第6話 呪い発動
とにかく相手は年下、調子を合わせるとしよう。
「なるほどそれは困る!」
「そうですか?」
そんなことないよ。
「で、他は」
「もう一つが大問題で」
「いいよ言ってしまおう。間を置かずサパッと頼む」
促すと、
「今から異世界に飛ばされます」
……そうか、それは反応に困るな。
「なるほどそれは困る!」
「そうですよね……」
なんでそんな深刻そうなの。
ゲームや小説じゃあるまいし、異世界とはなんのことだ。頭が異世界になるのならちょっとした恐怖だが、飛ばされるなどあり得ないではないか。
「異世界の定義が分からない。それはあれか、最近流行り過ぎて食傷気味の例のあれかい?」
「そうです、ネット小説で乱造されている例のあれです」
彼女も読んでいるのか。私の友人も読んでいるらしいが、正直悪役令嬢とかざまぁとか異世界転生とか聞いていると、一体なんの大喜利大会なのかと不思議になる。
全く縁がないのでさっぱりだ。
「飛ばされるのかーそうか、それは参った」
「あ、あくまで四分の一ですから!」
「うむそうだな。その一を引かない限り問題なさそうだ! そしてまだ飛んでいない。つまり問題ない!」
「そうだといいんだけど、私の呪い本物っぽいから……」
っぽいのか。本物と言い切ったら医者を勧めるところだった。
「何も起こらない。呪いもない。万事解決したのではないだろうか」
「そ、そうですね。もう少し様子を見て、それから料金をいただくことにします」
「うむ」
金取るんだな。アドバイスした身だが、さすがにこれで懐が痛むのはちょっと抗議したい気持ちだ。なんの、大人は吐いた唾は飲まん。広島県民ではないが、それが大人の定義である。
「ところでだ、帰りはどうするのだ。時間も時間、親御さんも心配しているーー」
世間話ついでにさすがに帰った方がいいと促すつもりだった。
その時である、異変が起きたのは。
眼前に、大自然が広がっている。
見れば稜線、山々が連なり、白い雪が山頂を飾り輝いていた。
草原は遠くまで広がり、緑が映え日差しがとても明るい。
物憂げなシャッター通りとあまりに異なる、異なり過ぎる。
なんて眩しさだ。
しばし呆然と立ち尽くすことになったのは、言うまでもない。
――時間はかかったが、ようやく頭が働き出した。
「どういうことだこれは……」
「ほ、ほんとに来ちゃった……」
え、人の声ってか、
「君もいるのか!」
「ええ、なんか私もついでに飛ばされたみたいな……」
隣に彼女が立っていた。明るい場所で見る彼女はまた違った印象を受けるが、今はそれを語っている場合ではない!
「き、君実はマジシャンだったのか。なんて大がかりな」
「こんな大がかりなマジック出来る人いたら世界がひれ伏します」
的確な指摘、意外に冷静だなおい。
「これがあれか、最近聞くメタバースという奴か。なんて大がかりな」
「そんなマシンどこにもないです。そうだったら良かったんですけど……」
これも違うのか。ではなんだと言うのだ!
「こうなるかもって、だから嫌だったのに……」
その口振りは、彼女の占いが現実と化したと言わんばかりのものだ。そんな馬鹿な、こんなことあっていいはずがない。
というか、さりげに俺へと責任転嫁してるようにも聞こえる。大人である以上今は責任を取るが、いやどう取れというのだ。俺の中の大人が音を立てて崩れていくぞ。
「本当の本当に異世界とやらなのか」
「本当みたい」
「なぜそう言い切れる! 夢かもしれないだろう!」
「二人して?」
ないか、ないな。あるなら一人だ。
「どうしてこうなった!?」
「ああもうっ、これが見えてたからやりたくなかったのに!」
「見えていたのか?」
「見たままだよ、これが水晶に映ってた!」
「君もいた?」
「正直いた」
じゃあ、ついでじゃないじゃん。当事者じゃん。
カナタと名乗る彼女のいい加減さはともかく、解決を目的としていたのに、一体これはどういうことか。
呪いも異世界も、実在するというのか?
とても信じられない。
大人として、俺はどうすればいいのだ。




