第三話 家庭教師
この世界に来てから、とうに三年が経過した。
つまりは、俺氏こと、ノイーズ・オーバンは4歳というわけだ。
月日が流れるのを早く感じ、どうやらいよいよ女性としての礼儀作法と、勉学をする為に家庭教師を呼ぶのだそうだ。
4歳ともなれば、ふつうに喋る事が出来る。だが、読み書きがいまだに出来ていない。父様に教えてもらっているが、やっぱり日本語じゃないと無理だった。
今俺は、父様がいる書斎にいる。どうやら、家庭教師を選んでいるそうだ。
新人からベテランまで。だが、ノイーズの家庭教師はあの人と決まっている。その書斎にその人の名前が書いてあれば……の話であるが。
そう思い、父様にその書類を見せてください。と、言ったら簡単に見せてもらった。
(ふむふむ、おぉ!ちゃんといるじゃん!)
ちゃんと小説の中にも出てきた、家庭教師。
ひとまずはこの人にしてみようかな。
「ぱぱ」
この人がいいと言う意味で、指を指す。
「ふむ…、リー・ラーリーか。確か彼女は新人だったよな?」
「はい、そのようです」
執事の人が、確認をとる。
そりゃあそうだ。リー・ラーリーとは男爵家の一人娘。そして昨年家庭教師になった新人の人。
その人が俺の家庭教師となるのだ!
「しかしな、ノイーズ。この人は新人の人。あまりいいとは思えないけど」
「やだ、この人」
その人じゃないといけない理由も、きちんと存在する。
その人は勉学を教えるのが、苦手。だが、その他の礼儀作法は一流だと言う設定だ!
なら、刺繍に言葉遣い、立ち振る舞いは一流だと言われている。その設定もきちんとある。どうやら、小さい頃に鍛え込まれているようだった。
「しかし、彼女は礼儀作法は一流だとあります」
「何!?」
「刺繍な言葉遣い、立ち振る舞いなど」
「ふむ、なら、ノイーズに教えるには、一番いいと言うわけか」
「はい、しかし勉学の教え方はあまり良くありません」
そう、そこなんだ。そういえば、小説でもその人は、叔母さんに、
『勉学を教えるのが、もうちょっとよかったら、あなたは一流よ!』
って言うセリフ。あったなぁ。
と、思い出しながら、二人のやりとりを見ていた。
「なら、こう言うのはどうです?礼儀作法などは、ラーリー男爵のご令嬢に。勉学などは別の人に任せるとかは…」
「うむ、それが良さそうだな。ノイーズもそれでいいかい?」
「うん」
正直幼少期の頃がどうとかは、書いていないためよくわからない。
だけど、ノイーズに二人の家庭教師ってついていたっけ?
そこら辺全然覚えてないなぁ。
ーーーーーーー
それから一週間後。父様と母様に選び出された、勉学の家庭教師がうちはやってきた。
「お見えにかかり、光栄でございます。ノイーズお嬢様」
「こちらこそ、光栄でございます。ダー公爵家のシンシア先生」
相手は公爵家な為、しっかりと敬意を見せないといけない。ノイーズの家は子爵家。公爵家には足元も及ばない。
「では、早速教えに入ります。ノイーズお嬢様は、魔法というのはご存知ありますか?」
「まほう?」
無論知っている。だが、やり方は知らない。
「魔法というのは、自分自身の体内に眠っている、魔素から出来るものです。これをマナと呼びます」
つまりは、こうか。魔素。
紙に言われた事を、映し、しっかりと聞く。
「次に、魔法の出し方についてですが、魔素を手から出す、とイメージすれば、反応し、詠唱、術式を完璧にすると、魔法が放たれます」
つまりはこうか。軽く絵を描き、分かりやすいように書いた。
それにシンシア先生は驚いていたが、説明を続ける。
「次に詠唱でございます。詠唱はこれだけで良いのです。『水泡』」
シンシア先生の手からは、シャボン玉のようなものが、出た。これが魔法という訳だった。
(へぇ、面白そう!)
俺もやってみたいと思い、手から出す事をイメージする。そして詠唱を言う。
「『水泡』
そう言うと、僅かであるが、手からシャボン玉のようなものが、飛び出した。ふわふわと部屋の中を浮き、壁に当たると、パチン!と、破裂してしまった。
「素晴らしい!これなら、覚えるのも早そうですね。アーバン子爵から言われました。読み書きができないと」
「はい」
未だに日本語しか書けなく、みんなは困惑していた。そりゃあそうだ。日本語は俺の前世での文字。
この世界に存在するとは思えない。
「ならば今日は、読み書きと魔法の基礎から学んでいきましょうか」
「はい!」
子供は元気よく返事をすれば良いと、昔言われたことがある。もちろん、前世の方で。
勉学の時間が終わった後は、どうやら礼儀作法の方の家庭教師が来たようだった。
「は、初めまして!リー・ラーリーと言います!お見えにかかり、光栄です!ノイーズお嬢様!」
「こ、こちらも光栄でございます。リー先生」
すごい慌てふためいており、表情も緊張していた。
「あの、リー先生」
「はい!?なんでしょうか?」
「あまり、緊張しなくても大丈夫ですよ。私は全然子供ですから。大人である先生があわあわしなくても、平気です」
励ましのつもりで行ったはずが、何故か泣いていた。何故だろう。何か言っちゃったかな。
「す、すみません!ノイーズお嬢様の前で、はしたない姿を!実は、なったばかり時は、いろんなことで失敗してしまい、今はもう仕事がほとんどない状態。それなのに、また失敗しそうになって。なので、そう言われた事が、ものすごく嬉しかったです」
何この子、めちゃくちゃ良い子じゃん。俺がノイーズじゃ無く、男として生まれていたら、多分猛アタックしてる。
それぐらい、なんて言うか放っておけなさそうな人だった。
その後は、態度が変わり、冷静さで俺に礼儀作法を教えてくださった。