第一章⑧
森に入った俺達は作戦を決めつつ臨機応変に対応が出来るか、各々で判断しつつ動くようにしていた。
ディーネが炎魔法が得意という事で、あまり強い炎魔法は繰り出していない様子だったが、逆に炎の熱さを調整して燃え広がらないように調節出来ているのが彼女の実力を物語っていた。
キャロはキャロで、スピードを活かした戦術でゴブリンに気づかれる事なく瞬殺。
俺は俺でウインドスラッシュをメインに、遠距離からの魔法攻撃で圧倒。結果的に、ゴブリン討伐のクエストは俺達三人には簡単過ぎたクエストだった。
「そろそろ一旦休憩をしましょうか」
10匹を難なく討伐し、討伐部位である右の耳を集め終わった時、ディーネがそう提案した。
「そうですね」
別に三人とも疲れていないのは分かりきっているのだが、何故休憩するのか。それは今後の話をする為だ。正直、連携を試すという意味でも、相手が力不足過ぎて連携をして普段よりどうだったかというのは分かりづらい。
討伐時間に関してはソロでの討伐よりも早いのは明らかだが、報酬が三等分になる事で効率的にどっちが良いのかを考えなければいけないし、そもそも信頼出来るのか。ここが一番大事なところだ。
この世界にレジャーシートなるものはないが、似たような大きさの布を平らな地面に敷き、三人で腰掛ける。各々自分たちで用意している革の水筒を飲んだり、携帯食料である干し肉などを食べ一息つく。
周りに魔物の気配もなく、音という音は虫や鳥の鳴き声のみで、森の匂いも合わさり、とても居心地が良い。
「ところで、どうだったかにゃ?」
そんなとき同じくひと息ついたキャロが俺に向かって感想を求めた。内容は勿論共闘についてだ。
「そうですね。相手が各々で一人でも圧勝出来るゴブリンだったので難しいところですが……」
「確かにもう少し強い魔物でも良かったにゃあ。手応えが無さすぎにゃ」
「連携という連携も取れませんでしたからね」
今、オレはこの話を断る流れで動いている。今日の所は結論はださず、次回もう一度共闘をして決めたいとつたえる予定だ。そして、共闘までの期間にこの二人をしらべて信用に足る人達なのか見極められればと思っている。疑い深いと思われても仕方ないが、信用するという決め手に欠く今の状況で答えを出すのは難しい。
「私は良いパーティになれるかなと思ってます」
ディーネも話に入ってくる。
「私達の環境での話で申し訳ないのですが、今まではキャロが前衛、私が後衛での立ち回りでしたが、オウカさんが剣も魔法も使えるのでどちらのサポートも出来ます。本来パーティを組むのであれば前衛に一人、後衛に一人増やすのがバランス良いパーティですが、オウカさんなら一人で二人分の動きが出来てしまいます」
俺は悟られないように唾を飲み込んだ。隠しもせず、自分達にとって良い状況だから組みたいとダイレクトに言われた事にも驚いたが、何より剣を一度も使っていないのに、前衛としての役割りも出来ると思われている事にビビったのだ。
ゴブリン討伐において魔法しか使っていない。帯剣をしてはいるが、剣は使っていないのだから腕前はわからないはずだ。最初から彼女たちは俺が魔法を使える事に驚いてるいたので、メインが剣士だと思っている可能性は高いが、それでも本人に確認をすること無く戦力として剣の腕前も含んでいるのは、果たして探られているのか、もしくは見透かされているのか。難しい判断だ。
「あれ? 剣を使えるなんて言いましたっけ?」
ひとまず、惚ける事に。俺は情報として剣を使える事をこの二人に話していないのでごくごく当然の反応だ。
「それはさすがにオウカの身のこなしを観ればわかるにゃ。素早さてあったり、ゴブリンへの対峙の仕方だったりが魔法使いのそれとは違うにゃ」
なるほど。言われてみれば、ほかの魔法使いの戦い方なんて今日初めてディーネを見たぐらいだ。たしかにディーネも軽快な動きだったが、俺のそれとは違う。純粋に戦士として見て、俺のおかしさに気づいたのだろうか。
「そろそろ、探り合いはやめにしませんか?」
どう答えてよいか悩んでいる所に、ディーネがさらにぶっ込んできた。
「探り合い? 何がですか?」
まずい。相手が二人だからなのか、相手のペースに持ち込まれている気がする。今の反応も、図星を突かれたかのようなぎこちなさが出てしまっている気がする。
「ズバリ言うと、オウカは凄く私達を疑っているにゃ」
核心を突くキャロ。
「言いたくはにゃいけど、私もディーネもとても美人だから、何の見返りもなく近づいて来る事に警戒するのはわかるにゃ」
自分で言うんかいっ! と突っ込めれば良いが、いまはそれどころではない。
控えめなディーネは一つ咳払いを挟む。
「コホン。私達が美人だなんだはひとまず置いておいて。ここまで警戒されるのは意外でしたが、逆に良かったとも思っています」
「良かった?」
話がみえなくなってきた。会話を続けるのは危険か……?
「問題を出すみたいで申し訳ないのですが、オウカさんに質問です。あなたに声をかけた時とそれ以前であなたの身の回りに違いがありますよね?」
違い? つまり以前から俺を知ってはいたが、昨日とそれ以前での違いで俺に声をかけたと?
違いはなんだ? 武器も防具も変えていないし、魔法のレベルは上がっているけど外で使う事なんて無かったし。後は昨日はホワを初めて……。あっ!
「ホワですか?」
ディーネとキャロは正解、とにっこりと微笑んだ。
「そうです。私達の村はホワ様、正確にはホワ様のお母さまを祀っていた一族なのです」
祀っていた? ホワって偉いの?
「ホワ様は本来この森が住処ではありません。話が長くなるので今は割愛しますが、ホワ様のお母様が危険に遭われ、その中でホワ様も住処を追われてここに辿り着いた時にオウカさんと出会ったわけですわ」
なんとなく話が見えてきた気が。
「つまり、あなた達はホワを保護する為に?」
「はい。ホワ様を追って私達も一週間前程からヨーラットに来たのですわ」
「元々森に住んでいた聖獣だったから森にの中にいるとは思っていたのだけど、なかなか見つからにゃくて」
俺からしたらほんとたまたま見つけただけだったんだけどな。というか聖獣!?
「ホワって聖獣なの?」
俺の世界の聖獣はとても神聖で、中々お目にかかれない存在だ。ゲームの中では終盤に仲間になるような。
「ホワ様はこの世界で10体しかいない聖獣の中の一体ですわ。まだ子供なので、正確に聖獣とはまだ言わないかもしれませんが」
すげえ貴重な存在じゃん。確かにスキルの才能とかもなんか凄そうだった。
ん? ちょっと待てよ。そうすると……。
「そうなると聖獣と従魔契約をしたって事に……
」
ディーネもキャロも神妙に頷く。
これってもしかしなくてもヤバい?
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