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第一章⑤

 ここヨーラットの街はグリセルディア大陸の南東に位置するガラディン国のさらに南東にある街だ。


 ガラディン国のさらに南東だと、他国からも一番遠く、他国からの行商人なども滅多に来ないし、栄えてもいない。


 俺の感覚で言えば都心というよりは地方のイメージ。地方が悪いとかそういう事でもなく、のどかな感じだというだけなんだけど、ヨーラットはその中でも栄えている街なのだ。


 周辺は大体村であり、街と呼ばれる箇所は多くない。


 気候は過ごしやすい春の陽気ぐらいの適温で、一年の半分以上がこんな感じらしい。冬も存在し、結構寒く、雪も降る時があるみたいだ。


 ただ、街の人々は大体優しく、元のオウカとリューネが何故この街に住んでいたのかはすぐ理解できた。


 色々な種族もおり、獣人なども多く目にする。


 冒険者も良識ある人が多く、彼らは名声を求めてというよりかはヨーラットが好きでこの街にいると聞く。


 周辺に出てくる魔物もゴブリンをはじめ、弱い魔物からフォレストウルフや山鳥などそれなりの魔物もおり、それらが上手く住み分けされているようで、自身の実力にあったクエストを受けやすい。


 そんなわけで、俺自身もとても過ごしやすいと感じていた。


 なので、ホワを肩に乗せて歩いていても、特に怖がられる事もなく、むしろ可愛いと軽い騒ぎになるのも予想の範疇ではあったのだが。


 冒険者ギルドに入って一変した。


「凄い可愛いにゃあ。可愛すぎにゃあ」


 語尾ににゃあがつくのは猫型の獣人の性だとおもっている。この獣人の女の子、俺がギルドに入って、ホワをみた瞬間、驚くべき速さで詰め寄ってきたのだ。


 ギルドに入った瞬間だった。いきなり目の前に来た時は焦った。目の前に茶色の髪の毛がぶわっと広がったかと思ったら大きな瞳が二つ、キラキラと輝いているのではないかとおもうぐらいの眼差しで俺とホワん交互に見ていた。


「ねえねえ、この子はホーンラビットかにゃ? けど角が無いにゃあ」

「えっ、ええ……種族はわからないんだけど、ひょんな事から連れてく事になったんですよ」


 あまりの驚きに、俺も素直に答えてしまった。種族を言う事を濁したのは我ながらグッジョブだ。鑑定を持っていると周囲に言ってしまってるようなものだからね。


「ふーん。そうなんだ。触っていいかにゃ?」


 猫娘はホワに興味深々で、もはや俺を見てない。対するホワはめっちゃ怯えている。そして、怯えている姿も申し訳ないが可愛い。いやいや、断らなきゃ。


「うーん。ちょっと急で怯えてるみたいだから、今は触らない方がーー」

「キュイーーー!」


 俺が言い終わる前に猫娘はホワを撫でくり回していた。ホワの悲痛な叫びが響く。


「可愛いにゃあ、可愛いにゃあ」


 そして、今に至る。飼い主としては可愛いと言われて嫌な気はしないが、困っているホワを見るのは忍びない。


「ちょっと、落ち着きましょう。ホワが怖がってます」

「ホワっていうのにゃ? 名前まで可愛いにゃあ」


 火に油を注いでしまったのか。名前を知ってよりホワを撫でる速度が上がった。このままだとホワの毛が摩擦ではげかねない。


「ストップストップ! 一回終わり!」


 俺が間に手を挟もうとしたが、猫娘の手はするりと抜けて、ホワを撫でるのをやめない。


 そろそろさすがに苛立ってくる。


「本当にーー」


 俺が本気で怒ろうとした時。


 スパーン! と良い音と共に、猫娘の手が止まった。


「痛いにゃあ!」


 猫娘が涙目で後ろを振り向く。俺もつられて猫娘の後ろに目をやると、そこには魔術師と言って良いだろう、紺色のローブに身を包む黒髪の女性が立っていた。手には、ギルドに置いてある雑誌を丸めた状態で持っている。


「駄目ですよキャロ。兎ちゃんが嫌がってますから」


 穏やかな口調、そして微笑んではいるが、とても笑っているようには見えない。整った目鼻立ちは男なら誰もが振り返りそうな美人であるからこそ、なんか怖い。


「ディーネ! いきなり叩かないでにゃあ!」


 ディーネと言われた女性魔術師は抗議する猫娘。いやキャロと言われていたか。キャロを無視し、俺をじっと見つめる。


「ごめんなさいね。この子、可愛い物に目がなくて」


 申し訳なさそうに謝るディーネ。頭を下げないあたり、自分が悪いとは思ってなさそうだが、まあ確かにこの人が悪いわけでも無いか。


「いえ、解放していただければ大丈夫ですから」


 と、言ってこの場から離れようとした。美人に謝られるとなんか逆に申し訳なくなってしまうのは、元々モテなかった人生で美人と話す機会がなかったからだろうか。気まずい感じがするのだ。


 しかし、会釈をして二人から遠ざかろうとした瞬間、猫娘が回り込んでくる。めちゃくちゃ速い。


「どこいくにゃ?」


 いやいや、今までの流れから逆に俺を止める理由があるか?


「そうですわ。ご迷惑かけてしまったので、何かお詫びさせてもらわないと」

「いえいえ、お気になさらず」


 そう言って立ち去ろうとするも、今度はディーネに腕を掴まれる。


「そう言わずに。ねっ?」


 ディーネが腕を掴む。美人の有無の言わさない笑顔に俺の身体が一瞬固まる。


 どうしてだ。何故だかこの二人はやけにオレに関わろうとしている気がする。……考えすぎか?


「お詫びに朝食をおごるわ。モロドハ食堂へ行きましょう」


 隙を見せたつもりはなかったが思いっきり引っ張られて体勢を崩しそうになるのをこらえる。そのせいで踏ん張りが効かず、なすすべもなく連れていかれてしまう。


「ちょ、ちょっと!」


 抗議の声虚しく、俺は冒険者ギルドから出されてしまったのだった。

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